理研の研究者らによる共同研究グループは、50~60歳代で多く発症する「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」と、小児期から発症する「脊髄性筋萎縮症(SMA)」という2つの神経難病に共通する病態メカニズムを初めて発見しました。この成果は、WileyとEMBO(欧州分子生物学機構)が共同で発行する医学誌EMBO Molecular Medicineで報告されました。
⇒ Tsuiji, H., Iguchi, Y., Furuya, A., Kataoka, A., Hatsuta, H., Atsuta, N., Tanaka, F., Hashizume, Y., Akatsu, H., Murayama, S., Sobue, G. and Yamanaka, K. (2013), Spliceosome integrity is defective in the motor neuron diseases ALS and SMA. EMBO Mol Med. doi: 10.1002/emmm.201202303 (EMBO Molecular Medicineはオープンアクセス誌で、すべての論文が無料公開されています)
ALSとSMAは、発症年齢は異なりますが、ともに運動神経細胞の病変により全身の筋肉がまひする神経変性疾患です。いずれも進行が早い難病で、原因の解明と治療法の開発が求められています。
今回の研究にあたった理研脳科学総合研究センター・運動ニューロン変性研究チームの山中宏二チームリーダー、築地仁美研究員らと、名古屋大学、東京都健康長寿医療センター、福祉村病院長寿医学研究所との共同研究グループは、ALSの発症に関わると考えられるタンパク質TDP-43や遺伝子FUS、また減少するとSMAの発症原因になることが知られているタンパク質SMNの動態を調べました。その結果、TDP-43、FUS、SMNは一緒に核内に存在し、Gemと呼ばれる構造体と共に局在していることが確認されました。
さらに、ALS患者の変性した脊髄運動神経細胞では、TDP-43タンパク質の異常によってGemが消失していて、DNAからタンパク質を合成する過程で重要なスプライシング反応を担うsnRNPsが核内に異常に集まることが分かりました。SMAの原因もsnRNPsの異常であることから、ALSとSMAの運動神経細胞に共通してsnRNPsの異常が見つかり、この異常がスプライシング反応の破たんを起こし、運動神経細胞の変性(死)に繋がることが明らかにされました。
今回の研究は、未だに根本的な治療法が見つかっていない難病のALSとSMAに共通する病態メカニズムを初めて突き止めたもので、同グループは今後、スプライシング反応の破たんがどのように運動神経細胞死を引き起こしているかを検証し、運動神経変性疾患全体の発症メカニズムの解明につなげていきたいとしています。
■ 参考資料: 60秒でわかるプレスリリース:神経難病ALSとSMAに共通した病態メカニズムを発見 (理研の発表資料)
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