アジア糖尿病学会(AASD – アジア17ヵ国20団体が参加) の英文機関誌 Journal of Diabetes Investigation から、近年研究が進んでいるインクレチンの膵外作用に関する総説が出版されました。筆頭著者である、関西電力病院の清野裕先生により下記ご紹介いただきましたので、是非ご一読ください。
当総説は全文に無料でアクセス頂けます
Glucose-dependent insulinotropic polypeptide and glucagon-like peptide-1: Incretin actions beyond the pancreas
Yutaka Seino and Daisuke Yabe
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関西電力病院の清野裕先生によるご紹介
インクレチンにもとづく薬物療法(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)は、国内外の糖尿病診療を大きく変革しつつあり、本邦で治療を受ける糖尿病患者の半数以上にあたる280万人に使用されるにいたる。特に、日本人やアジア人では、他民族と比して、インクレチン関連薬が奏功することが報告され、今後、インクレチン関連薬がインスリン初期分泌不全を特徴とする日本人、アジア人の2型糖尿病の治療戦略の第一選択となる可能性もある。また、基礎的な研究からインクレチンの膵外作用の解明が進み、血糖改善作用を超えた糖尿病合併症進展抑制に対するインクレチン関連薬の効果についても期待が高まる。
インクレチンの歴史は、1906年、Mooreが腸管抽出物により糖尿病患者の尿糖が減少することを示し、インクレチンの概念を確立した頃に遡る。1929年、La Barreらが腸管抽出物から血糖降下作用を有する成分を精製、インクレチンと命名、現在までに、GIP、GLP-1の2つのホルモンがGIP受容体及びGLP-1受容体を介してインクレチンとしてインスリン分泌促進作用を発揮することが示されている。GIP受容体、GLP-1受容体が膵β細胞以外にも様々な組織に発現されることから多様な膵外作用が予測されてきた。われわれのグループやDruckerらのグループがそれぞれGIP受容体欠損マウス、GLP-1受容体欠損マウスを作出、解析をすすめたこと、さらにはGLP-1受容体作動薬やDPP-4阻害薬を用いた研究により、インクレチンが多彩な膵外作用を有することが明らかにされてきた。
糖尿病による大血管障害(虚血性心疾患、脳血管疾患、末梢動脈性疾患)に対して、インクレチンの有益な作用が示唆されている。GLP-1は心筋細胞のアポトーシスを抑制するほか、心筋の代謝を是正して虚血心の心機能を改善するがそのメカニズムについてはなお不明な点もある。またGLP-1は脳虚血後に酸化ストレスや神経細胞死を抑制するため梗塞巣を大幅に縮小する。さらにGLP-1は脂質異常や高血圧を是正すると共に免疫細胞に作用して慢性炎症を是正、動脈硬化進展を抑制する。また糖尿病による細小血管障害(神経障害、網膜症、腎症)に対しても、インクレチンの有益な作用が示唆されている。さらに、糖尿病の併存症(認知症、肥満、脂肪肝、骨折)に対しても、インクレチンの関与が報告されている。GIPは、高脂肪負荷時にインスリンと協調して脂肪蓄積を促進するため肥満を助長する可能性がある。また、GIPは骨芽細胞に作用して骨形成を促し、破骨細胞による骨吸収を抑制する。GLP-1は齧歯類ではカルシトニンを介して骨吸収を抑制する。
インクレチン関連薬が日本に上市されて約3年が経過し、血糖改善効果については臨床試験のみならず実臨床において検証が進みつつある。一方、糖尿病合併症や併存症の予防や進展抑制については依然不明な点が多く、国内外で進行中の臨床試験の結果が待たれる。本総説では、糖尿病合併症・依存症に関して、基礎的な研究から明らかにされたインクレチンの膵外作用を整理した。今後、明らかにされるインクレチン関連薬の多面的効果を理解する上で本総説が一助となることを期待する。
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