日本睡眠学会の英文機関誌 Sleep and Biological Rhythms から、第5回国際RBD(REM Sleep Behavior Disorder)シンポジウムで発表された研究を掲載した特集号が出版されました。本特集号のGuest Editorの一人である平田幸一先生(獨協医科大学神経内科)により下記ご紹介いただきましたので、是非本文と共にご一読ください。
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Special issue on RECENT ADVANCES IN THE RESEARCH ON REM SLEEP BEHAVIOR DISORDER (RBD)
–The 5th International RBD Symposium–
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平田幸一先生によるご紹介
Sleep and Biological Rhythms誌は日本睡眠学会の学会誌であり,すでに国際的にも認知された雑誌ですが,本特集では東京医科大学睡眠科学講座教授井上雄一大会長のもと開催された第5回国際RBD(REM Sleep Behavior Disorder)シンポジウムの講演内容を論文化したものです.本会は京都でのWorld Sleep2011に引き続き大津で行われましたが,その会ではまさにRBD研究で世界をリードしている講師の方々を一同に集めています.すなわち本書を紐解けばRBDの最新の研究と,その方面でのリーダーの活躍すべて知ることができるといっても過言ではありません.小生の目からみた本特集の内容を具体的に紹介します.
まず,フィンランド,HelsinkiのPartinen先生は小児期ナルコレプシーにおける睡眠潜時測定初期の両眼眼球運動の非共同性(skew deviation?)について述べられています.彼らは自己免疫/炎症性ナルコレプシーで,この現象があることを見出しているのですが,この眼球運動異常が一般のナルコレプシー患者に認められるかどうか論じています.そして病態生理についてはわかっていないと述べています.
次に,フランス,LyonのLuppi先生,Clement先生そしてFort先生は以下のような重要な論文を発表しています.すなわち,RBDの原因となるPS-onのニューロン機能不全につき検討し,橋尾側の側背側被蓋核でのグルタミン作動性神経の変性,あるいは延髄の腹部網様核のグリシン/GABA作動性ニューロンが変性が機能不全の基盤となっていると述べています.
フランス,ParisのArnulf先生は,RBDの入眠幻覚は,潜在的に重要な神経徴候で,ナルコレプシーでの幻覚の強力な独立危険因子である一方,他疾患でもしばしば関連してみられる重要なものであり,パーキンソン病においても,将来の幻覚発生と精神疾発生を予測させるものと述べています.
さらに,カナダ,MontrealのBertrand先生, Marchand先生,Postuma先生そしてGanon先生 はRBDの認知障害は広く認められた症状と知られているが,RBD患者の認知機能障害は注意,実行機能,エピソード記憶と視覚空間に関する能力にあって,これらは単一な起源や病態生理では説明がつかないとしています.さらに,RBD患者の50%以上は,軽症認知障害(MCI)の診断基準を満たし,Montreal Cognitive Assessmentが,RBDでのMCIを検出するための最適なスクリーニングテストであると述べています.
米国MinnesotaのSchenk先生とHowell先生は,パラソムニアに重畳する類似疾患(Parasomnia Overlap Disorder:POD)について総説的に述べられ,ICSD-2のRBDのサブタイプとしてのPODの最新の分類を記述しています.すなわち,無症状RBD-NREM睡眠時異常行動症,RBD-睡眠関連食行動障害,RBDに伴う夢中性行為,RBD周期的運動障害と解離障害(SD)を概説しています.
イタリアのBolognaとスイスのLuganoのFulda先生とPlazzi先生は,急速眼球運動睡眠におけるアトニーの消失の視覚の分析のためのスコア基準についてその自動定量化が視察法より優れており,急速眼球運動睡眠の間,アトニーと運動抑制の基礎をなしている複雑な機序の解明に寄与すると述べています.
さらにオーストリアInnsbruckのMitteling先生 とHoegl先生からは,RBDの脳幹病変を画像的に検討しています.SPMとDTI(拡散テンソルイメージ)で特発性RBD患者と正常対照を検討し,その結果,小脳,橋被蓋と左の海馬傍回で,有意の灰白質委縮が明らかになったとしています.これは本研究でみられた異常領域が,急速眼球運動睡眠の特徴を調整している領域で,かつ, シヌクレオパシーを進展させる部位と一致することを示唆しています.
さて,わが国の埼玉,栃木の,宮本智之先生,宮本雅之先生 そして小生のグループは,RBDはパーキンソン病(PD),レヴィー小体型認知症または多系統萎縮症に進展する危険が高いことが報告されていますが,Positron emission topography (PET)による6-[18F] fluoro-L-m-tyrosine/の取り込みで減少と経頭蓋エコーによる中脳黒質高輝度所見はプレクリニカルなドーパミン作動機能不全を伴うPDまたはレヴィー小体型認知症の進展を前方視的に示唆すると報告しました.
フランス,MontpellierのBayard先生と Dauvilliers先生は,カタレプシーをともなうナルコレプシーは視床下部よりのオレキシン低下により発生することが報告されているが,動物研究においてオレキシン低下が報酬と嗜癖行動に関係していることを示しました.結論として,オレキシンは報酬と依存と密接な関連があることを示しているとしています.
デンマーク,CopenhagenのJennum先生,Frandsen先生と Kundsen先生はオレキシン神経系がヒトで覚醒状態と睡眠の間,運動系の筋トーヌス調節に関与しているとしており.オレキシン神経系機能低下が機能的運動制御を障害し,脱力発作の発現に関係する一方,RBD,アトニアをともなわないREMにおけるphasicな運動活動を生じさせることを提案しています.
さて,カナダ,Montrealの Postuma先生は,特発性RBDは,神経変性疾患の確立した危険因子であり,特発性RBDを有する患者の少なくとも40.65%は,10年後シヌクレオパシーであるパーキンソン病,レヴィー小体型認知症または多系統萎縮症となると警告しています.ドーパミン作用機能的な画像診断と経頭蓋超音波を含む黒質の神経画像処理標識は充分ではないもののその予測に有用であると述べています.
最後に我が国の野村哲司先生,中島健二先生(鳥取)そして大会長の井上雄一先生(東京)は, RBDは,多系統萎縮症,パーキンソン病とレヴィー小体型認知症を含むシヌクレオパシーに,しばしば生じる一方,タウオパチーである進行性核上性麻痺患者で比較的まれであり,さらに,タウオパチーの代表であるアルツハイマー病RBD症状の頻度は高くない.このように,RBDはシヌクレオパシーに比較的特有であると考えられるが,その一方で,両者とも皮質痴呆を共有するという問題を提起されました.
以上のように,本特集はRBD研究に興味を持つ研究者にとって有益な情報に溢れていると思われます.是非ご一読いただけましたら幸いです.
獨協医科大学
神経内科
平田幸一
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