日本皮膚科学会の英文機関誌 Journal of Dermatology から、脱色素異常症の遺伝学について新知見を掲載した特集号が出版されました。本特集号のGuest Editorである鈴木民夫先生(山形大学医学部皮膚科学講座 教授)により下記ご紹介いただきましたので、是非本文と共にご一読ください。
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Special issue on Genetics of hypopigmentary disorders
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鈴木民夫先生によるご紹介
脱色素異常症の有効性の高く効果的治療法は多くの疾患で未だに確立されていない。しかしながら、最近の目覚ましい分子遺伝学的研究により、多くの色素異常症について、メンデル遺伝病については原因遺伝子、非メンデル遺伝病においては感受性遺伝子が同定され、その病態については徐々に明らかにされてきた。そこで、本特集では脱色素異常症の5つの代表的疾患について、それぞれの分野のエキスパートから新知見をまとめてもらった。
1.尋常性白斑(RA. Spritz):尋常性白斑感受性遺伝子として、これまでに十分なエビデンスを持つものが36遺伝子座が報告されてきた。そのうち90%は免疫関連の遺伝子であり、残り10%がメラノサイト特異的遺伝子であった。その中で特に注目されるのが、TYR, HLA-A, NLRP1, GZMBの各遺伝子である。これらの遺伝子の機能解析に関する研究結果は、尋常性白斑を発症させる引き金は軽微な皮膚の損傷であるとの仮説を提供している。
2.ヨーロッパにおける白皮症(M. M-Garciaら):これまでに眼白皮症として1遺伝子(GPR143)、眼皮膚白皮症(OCA)の原因遺伝子として14遺伝子が報告されてきた。ヨーロッパではOCA1型が最も頻度が高く、OCA2型、そしてOCA4型と続く。OCA3型やHermansky-Pudlak症候群などの症候性白皮症は稀である。最近、新しい遺伝子座として4q24にマッピングされたパキスタンOCA家系がOCA5、さらにはC10ORF11のナンセンス変異のホモ接合を持つデンマーク家系がOCA6として報告された。今後はさらに新たなOCAの原因遺伝子座が報告されることであろう。また、OCA1B型については新規治療も開発されつつある。
3.Hermansky-Pudlak症候群(HPS)にみられる低色素(AH. Weiら):HPSは眼皮膚白皮症、出血傾向、セロイドリポフスチン顆粒の全身組織への沈着を3徴とする常染色体劣性遺伝性疾患である。メラノソームおよびメラノソームへのメラニン合成に必須な酵素や基質の細胞内輸送が障害され、眼皮膚白皮症が発症する。細胞内輸送についてわかり易く解説している。
4.まだら症(N. Oisoら):まだら症は生下時よりの前額部の白斑、体幹腹部、四肢の白斑を特徴とする常染色体優性遺伝性疾患である。KIT遺伝子の機能喪失型変異によって発症することは以前より知られていたが、患者の症状の多様性はKIT変異型だけでは説明がつかず、MC1Rが修飾遺伝子として関与していることが最近報告された。また、KIT/KITLG系情報伝達が引き金となって始まるRas/MAPKまでの情報伝達経路はその障害部位によりいろいろな合併症を伴う疾患が発症する。
5.遺伝性対側性色素異常症(DSH; M. Hayashiら):DSHは四肢末端の脱色素斑と色素班の混在を特徴とする常染色体優性遺伝性疾患である。原因遺伝子はADAR1であるが、その発症メカニズムはいまだ明らかでない。ADAR1の機能について、最近の報告によるとウイルス感染に際してその免疫の一部を担っていることが明らかになり、DSHの病態解明にヒントを与える可能性がある。また、これまでのDSHの全報告例をまとめ、p.G1007Rを伴う患者にのみ重篤な神経症状の合併が認められたが、他の変異には合併症はなかった。
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