認知症研究と包括的ケアの最新報告を掲載、日本老年学会英文誌から特別号出版 【無料公開中】

Comprehensive-Care-and-Research-on-Memory-Disorders-in-JapanGeriatrics & Gerontology International (日本老年医学会の公式英文誌)から日本の認知症研究と包括的ケアを医療、福祉などの側面から報告する3編の総説と8編の論文を掲載した特別号が出版されました。鳥羽研二先生(国立長寿医療研究センター 病院長)により、下記ご紹介頂きましたので本文と併せて是非ご一読ください。

  無料公開中   ⇒ Current Progress in Comprehensive Care and Research on Memory Disorders in Japan free_access

****************************************

国立長寿医療研究センター 鳥羽研二 先生によるご紹介

 現在、認知症は、介護保険レベルで約320万人、長寿科学研究班の地域調査では462万人以上で、予備軍であるMCIも400万人いるとされる。認知症は今後さらに増加が予測され、まさに「国民病」として対処する必要がある。認知症患者と家族の苦しみが社会問題化しているのは、医療・ケア・行政などのサービスの質と量が不十分であることの現れである。

 平成24年厚生労働省認知症施策プロジェクトチームは、「かつて、私たちは認知症を何も分からなくなる病気と考え、徘徊や大声を出すなどの症状だけに目を向け、認知症の人の訴えを理解しようとするどころか、多くの場合、認知症の人を疎んじたり、拘束するなど、不当な扱いをしてきた。今後の認知症施策を進めるに当たっては、常に、これまで認知症の人々が置かれてきた歴史を振り返り、認知症を正しく理解し、よりよいケアと医療が提供できるように努めなければならない」と反省と新しい方向性を示した。具体的には1)かかりつけ医の認知症対応力の向上 2)「認知症初期集中支援チーム」の設置 3)アセスメントのための簡便なツールの検討・普及 4)早期診断等を担う「身近型認知症疾患医療センター」の整備 5)認知症の人の適切なケアプラン作成のための体制の整備が挙げられている。

 本特集により期待される成果は、正しい見方(診断)に裏打ちされた、MCIから終末期まで、非薬物療法のエビデンスに基づく「適切な対応」を系統だって構築することであり、今後の施策方向性に合致するのみならず、具体的施策1)~5)の殆どの領域に、「実際の方法」と「裏打ちされる成績」をセットで提供するものであり、今後の認知症施策の微修正に直接反映されるものである。今後展開されるモデル事業を通じて、全国での民間利用に活用されることは云うまでもない。 

 我々は、認知症の生活機能評価、BPSD、ADL障害などへの対応マニュアルを作成報告してきた。対応マニュアルの骨格となるのは、薬物療法の功罪を含めた見直しと、非薬物療法の家庭への普及であるが、非薬物療法のエビデンスの研究は不十分であり、対応マニュアルの科学性の質を担保するため、非薬物療法の研究と包括的ケアへの効果判定は同時進行して行う必要がある。これらは家族教室などの住民啓発、身近型認知症疾患医療センター、認知症短期集中リハビリを行うデイケア、もの忘れ外来などの認知症外来、BPSD対応病棟、身体疾患対応一般病棟におけるデータ収集と対応の効果判定というケア場面、病状進行に応じた時間軸を考慮し、実効性を縦断的に検証し、国家的な対策として提言を行うことが求められている。

 本特集の最大の特色は、「在宅維持、穏やかな日常、介護負担の軽減」といった共通のキーワードが研究の底流となっていることである。 介護者の選択の眼力を高めるため 1)予防、MCI、軽症、重症といった時間軸に応じた選択 2)脳の機能異常と保持されている部分に注目した選択 3)ADL低下、身体合併症といった多様な医療ニーズに応える選択 4)その日の調子に合わせた選択など多様なテーラーメイドな選択が可能になる医療社会福祉制度の構築に向けた試みが、「認知症になっても安心出来得る社会」への登山道の一歩となることを祈念している。

Related posts:

  1. 年末スペシャル 最もアクセスされた2013年出版の論文 【無料公開中】
カテゴリー: 神経医学, 老年医学, 認知   タグ:   この投稿のパーマリンク

コメントは受け付けていません。