多発性硬化症サマーカレッジの発表内容をClinical and Experimental Neuroimmunology特集号で無料公開中

Molecular Targeted Therapy in MS Bench to Bedside and Bedside to Bench2014年8月2日-3日に福岡市で開催された第1 回MS サマーカレッジでの講演を中心にまとめたレビュー集がClinical and Experimental Neuroimmunologyから出版されました。全ての論文についてどなたでも無料でアクセス頂けますので、この機会に是非ご覧ください。

また、Chief Editorsの一人である吉良潤一先生(九州大学大学院医学研究院 脳研 神経内科学 教授)から本特集号のご紹介頂きました。本文と併せてご一読ください。

  無料公開中  
Clinical and Experimental Neuroimmunology 第5巻s1号

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日本神経免疫学会理事長 吉良 潤一先生によるご紹介

このsupplement 号は,平成26年 8 月 2 日,3 日に福岡市で開催された第1 回MS サマーカレッジでの講演を中心にまとめたレビュー集です。本会は,昨年まで12 回(12 年)にわたって開催されたMS ワークショップの後を継ぐものとして開催されました。MS ワークショップは,日本のMS 研究者,臨床家に毎年最新のMS に関する知見をもたらすものとして,本当に大きな貢献をなしたと思います。また我が国のMS neurologists にとっては,とても楽しい交流と有意義な意見交換の場でもありました。

第1 回MS サマーカレッジは,Molecular Targeted Therapy in MS: Bench to Bedside and Bedside to Bench というテーマで開催されました。このような神経内科の研究会のメインテーマとして,分子標的療法を現実のものとして取り上げるようになったことは,MS ワークショップがスタートした13 年前を思うと隔世の感があります。インターフェロンベータが初めてのdisease-modifying drug (DMD)として上市したときも大きなインパクトがありましたが,ブロードな作用をもつDMD から,わずかこの1,2 年の間にピンポイントに作用する分子標的療法の時代にすっかり様変わりしてしまったことに驚きを禁じ得ません。分子標的療法のなかでも,スフィンゴシン1 リン酸受容体を標的としたフィンゴリモドは,経口投与可能という点で画期的な分子標的薬といえます。MS にとって初めての経口分子標的薬が,実は我が国で開発されたということは,日本人にとって大きな誇りと自信を与えるものであります。

1986 年に京都大学の藤多哲朗教授,台糖,吉富製薬の三者により共同研究が開始され,1988 年に冬虫夏草の培養上清からmyriocin (ISP-1)が単離され,その化学修飾により1993 年にフィンゴリモドが作られるに至りました。当初,フィンゴリモドは腎移植後の拒絶反応を抑える目的で臨床試験が行われましたが,うまくいかず,ターゲットをMS に変えて2003 年から臨床試験が開始されました。2008 年に公表された海外のTRNSFORMS 試験,2009 年に公表されたFREEDOMS 試験の結果をもとに,2010 年に海外で,2011 年には国内で製造承認されるに至っています。20 年余の期間で画期的な新薬が誕生したことは,本当にすばらしいと思います。治らないものの診断ばかりしてと言われてきた神経内科も,MS を皮切りに分子標的療法の時代に突入しました。これからは神経免疫疾患のみならず神経変性疾患においても分子標的療法が必ずや導入される時代になると思います。

ところで,私には,フィンゴリモドがMS になぜ有効なのか,わかったようでわからない気がします。自己免疫機序が確実とされる視神経脊髄炎を,フィンゴリモドはむしろ悪化させるのに,なぜMS では有効なのか不思議に感じます。インターフェロンベータも,むしろ自己免疫を悪化させることが多いわけですが,不思議とMS には有効です。全身性の自己免疫疾患とは違うメカニズムがないとこんなことは起こらないんではないかと思います。また,DMD もMS の再発は減らしますが,一次性にせよ二次性にせよ進行型を抑制することはできません。なぜ再発(炎症)を抑えても進行(変性)は抑えられないのか,これも大きな謎です。つまりまだまだMS の本質的なところは,ちっとも解明されていないともいえます。したがって,これからもMS サマーカレッジなどを通じた研究の一層の活性化が望まれます。このMS サマーカレッジは,第1 日目は気合も入っているので英語で,第2 日目は前夜に飲み過ぎてしまうので日本語でやりました。国際化に対応すべく英語の勉強と交流と,これからもバランスよくやっていきたいものです。

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