多層カーボンナノチューブの経気管肺内投与による発がん性が示唆される/日本癌学会英文誌から最新研究報告

MWCNT intratracheally instilled into the rat lung induce pleural malignant mesothelioma and lung tumors多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の経気管肺内投与による発がん性について最新研究が日本癌学会の公式英文誌Cancer Scienceで報告されました。著者の一人である名古屋市立大学 津田洋幸特任教授により論文のご紹介をいただきましたので、是非ご一読ください。

Multiwalled carbon nanotubes intratracheally instilled into the rat lung induce development of pleural malignant mesothelioma and lung tumors Open access
Masumi Suzui, Mitsuru Futakuchi, Katsumi Fukamachi, Takamasa Numano, Mohamed Abd Elgied, Satoru Takahashi, Makoto Ohnishi, Toyonori Omori, Shuji Tsuruoka, Akihiko Hirose, Jun Kanno, Yoshimitsu Sakamoto, David B. Alexander, William T. Alexander, Jiegou Xu and Hiroyuki Tsuda

*現在は抄録のみの提供となっています。全文は約1ヶ月後にオンライン公開されます。

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名古屋市立大学 津田洋幸特任教授によるご紹介

多層カーボンナノチューブのラットの肺に経気管肺内噴霧投与による胸膜悪性中皮腫と細気管支—肺胞上皮腫瘍の発生

 多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、炭素原子が六角形の頂点に配置されたグラファイトシートを円筒状に巻いた形をしており、直径は10〜100ナノメートル程度(髪の毛の約1/50,000)のチューブ状の繊維である。多くの場合、内側に同軸で複数(多層)のチューブが含まれている。アルミニウムの約半分の重さ、鋼鉄の100倍の引っ張り強度、ダイヤモンドの2倍の硬度があり、破断しにくく柔軟性に富んでいる。また、導電性は銅よりはるかに優れ、しかも高い熱伝導性と硫酸にも溶けない耐薬品性がある。
 MWCNTは、まさに未来を拓く夢の素材として強化樹脂、半導体、リチウム電池、燃料電池、ディスプレイ画面等の多方面に使用され、最近ではバイオセンサーやドラッグデリバリー等の生体への応用も考えられている。MWCNTの生産量は国内で年間約100トン、世界では約300トンとされる(経済産業省ナノマテリアル情報提供シート・ H20-26年度等)。
 しかし、MWCNTの針状の凝集体はアスベストとの類似性があることから、吸入暴露による呼吸器障害と発がん性が疑われた。MWCNT-7(M-H社)についてはマウスとラットへの腹腔内投与によって腹腔内悪性中皮腫を発生させることが報告されている(Takagi, J Tox Sci, 2008; Sakamoto, J Tox Sci, 2009)。これらの結果に基づき、WHO International Agency for Research on Cancer(IARC)におけるハザード評価でこのMWCNT-7はGroup 2B(ヒトに発がん性を示す可能性がある)とされた。しかし、人におけるリスク評価には実際にあり得る吸入暴露による試験が必要であるが、本邦でそれが実施可能な施設は労働者安全機構・バイオアッセイ研究センターに限られ、最近ようやく1物質、MWCNT-7(M-H社)について全身暴露吸入試験が実施され、肺発がん性が報告された(厚生労働省委託「複層カーボンナノチューブ(MWCNT)のラットを用いた吸入によるがん原性試験報告書」、日本バイオアッセイ研究センター、2015)。吸入暴露試験には専用の施設と高額な稼働コストを要するため、他のMWCNT種の発がん性試験は世界でも未だ実施されていない。他方、簡便な細菌や細胞を用いた試験管内試験や短期の動物試験で得られるデータは限定的である。
 著者らは、吸入暴露に替わる方法として開発してきた経気管肺内噴霧法(Trans-tracheal Intra-pulmonary Spray, TIPS)を用いて、MWCNT-N(N社、MWCNT-7とは別製品)の1〜2週程度の短期投与を行うと胸膜中皮の過形成増殖が発生すること、そして投与したMWCNTは肺と胸膜組織に沈着して長く残存することを観察した(Xu, Cancer Sci, 2012; 2014)。この知見に基づき、MWCNT-Nを生食中に0.5%Pluronic F68を分散剤として懸濁したものを、雄ラットに125μg/0.5mlを2週間に8回TIPS投与を行い(計1mg/ラット)、その後無処置で109週まで観察した。対照群(無処置群とPF68分散溶媒投与群)ではいずれも胸膜中皮と肺の腫瘍の発生はみられなかったが(0/28、0%)、MWCNT-N投与群では心嚢と縦隔胸膜の悪性中皮腫の発生は6/38(15.8%, p<0.05)、細気管支-肺胞上皮腺腫と腺がんの発生合計は14/38(36.8%, p<0.01)であった。これら腫瘍の合計は20/38(52.6%, p<0.01)であり、半数を超える動物に腫瘍発生が認められた。なお、検体の長さの篩板濾過分画(全、濾過、残存分画、すべて2.6μm以上)による差異は発がん頻度に影響はなかった。投与した1mg/ラットのMWCNT-Nは109週後でも38〜80%残存したことから、投与は短期で充分であることが示唆された。
 MWCNT製品は使用目的、製造会社、製造ロット等によって夾雑金属の種類と量、繊維の直径・長さ・層数等に差異があるため、個々の製品についての安全性試験が必要となる。本研究結果から、経気道的肺内噴霧投与によって、MWCNT-Nは肺と胸膜中皮に発がん性のあることが示された。この試験法では特別な設備の必要がなく、投与後は飼育観察するのみであることから、安価にして実施容易な方法と言える。今後、MWCNT-7を含む多種検体についてNOAELを意識した低用量域における実験によってこの方法のvalidationが得られれば、カーボンナノチューブ製品の安全性評価の加速化に大きく貢献できると考える。

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