Wiley-Blackwellから今月刊行されたuncommon cancer(稀な腫瘍)に関する定評ある参考書の改訂版”Textbook of Uncommon Cancer”第4版を、浜松医科大学の椙村 春彦教授にご推薦いただきました。
Textbook of Uncommon Cancer, 4th Edition
Derek Raghavan, Charles Blanke, David H. Johnson, Paul L. Moots, Gregory H. Reaman, Peter G. Rose, Mikkael A. Sekeres
ISBN: 978-1-1180-8373-4
Hardcover 1016 pages
October 2012, Wiley-Blackwell
US $349.95
(上の書名または表紙画像をクリックすると目次・サンプル章などをご覧いただけます)
- 本書を推薦します -
大学院時代に手に取ったUncommon cancer あるいはuncommon tumorという書物は、この第4版の書物の半分もなかったように思える。
Uncommon な腫瘍に遭遇することはとくに若者にとって刺激であり喜びであり、大発見のきっかけになるかもしれないと夢想したりする。こういうnaïveな若者が病理学教室にあまりはいってこなくなったのではないかと思う。似たようなことを、菅野晴夫先生が解剖例について(つまり珍しい例の解剖例はむかしはみんな取り合って解剖したものだ)書いておられたように記憶しているが、筆者は四半世紀以上下った世代なので、今更のことではないかもしれない。
もう一つ重要なことは、uncommon tumorに遭遇した若者は早晩病理学あるいは学問の蓄積量と、果てしない知識の地平線に愕然として、昔ならコピーの山のなかで、いまなら、down loadしたpdfのfileのなかで、いったんはがっかりするということである。折しも山中博士が、高校生にいっぱい失敗してくださいという檄を飛ばしているという週刊誌の見出しがあるが、若い病理学者が謙虚になり同時にファイトをかき立てるためにも座右においておくとよい。
Uncommonという定義は種々のものがあり、小児の副腎腫瘍のようにそもそもが低頻度なものから、組織像の稀なものなどがあり、後者は、本書で、嵩真佐子博士が書かれていることでもわかるように、専門家にいわゆるお墨付きをもらってはじめてuncommon tumorとして病名をいただくというような状況もあるだろう。若者としては悔しい限りではないか。
GISTやLi-Fraumeni症候群にともなう副腎腫瘍、melanomaのある種のものなどは分子生物学的な性格付けをもってentityとして“立っている”。本書に書かれた腫瘍がuncommonで、形態学的にもなかなか難しいけれど、文句のいいようのない診断法がある、できれば対応する治療法もあるというかたちで、第5版、第6版と大きく発展していくのを見るのが楽しみである。遺伝的素因についても、common cancer common polymorphism hypothesisという仮説から、rare or uncommon polymorphismによる病気という考え方が生まれ、uncommon cancerは一定の条件下のrare phenotypeとして見ることもできる。診断病理医ばかりでなく、病気を研究するすべての学徒にとってもchallengeが詰まっている書物である。
浜松医科大学 腫瘍病理学講座教授
椙村 春彦
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