1997年に発生したナホトカ号重油流出事故では、大量の重油が日本海に流出し、漂着した沿岸地域の漁業などに甚大な被害を与えました。その後も、海底油田や船舶の事故による石油流出が深刻な環境汚染をもたらす例は、世界各地で後を絶ちません。
そのような事故時に、海から石油を回収除去するための新技術として浮上したのが「スポンジ・グラフェン」(spongy graphene)です。テキサス大学オースティン校のRodney Ruoff教授らによる研究グループは、グラフェンを加工して開発したスポンジ状の新材料を使って、人工海水に浮かべたさまざまな石油製品を吸収させる実験を行い、その結果をAdvanced Functional Materials誌で報告しました。材料科学ニュースサイトMaterials Viewsが解説記事を載せています。
⇒ Materials Views - Cleaning up oil spills with graphene sponges
スポンジ・グラフェンは、最大で自重の86倍にもなる大量の油を吸収する性能を持ち、また吸収された油は、加熱処理によって99%の高率で回収することができました。スポンジ・グラフェンは、油の吸収・回収を繰り返しても性能が落ちにくいことも利点で、実験では性能を保ったまま十回再利用することができたそうです。これまでの石油回収技術と比べて、回収力・費用・安全性・再利用性などさまざまな面でスポンジ・グラフェンは勝っているとのことです。
電子材料として注目されるグラフェンですが、そのほかにも意外な応用可能性を秘めているようで、目が離せません。
■ 元の論文はこちら(本文を読むにはアクセス権が必要です)
⇒ Bi, H., Xie, X., Yin, K., Zhou, Y., Wan, S., He, L., Xu, F., Banhart, F., Sun, L. and Ruoff, R. S. (2012), Spongy Graphene as a Highly Efficient and Recyclable Sorbent for Oils and Organic Solvents. Adv. Funct. Mater.. doi: 10.1002/adfm.201200888