東南アジアの熱帯雨林に生息するテナガザルは、大きく澄んだ声で朗々と歌う「ソング」という独特の音声コミュニケーションをすることで知られ、その「ソング」はジャングルの木々の間を通り抜けて、2km以上遠くまで届くそうです。京都大学霊長類研究所の西村 剛准教授らの研究グループは、そのようなテナガザルの発声の仕組みを調べるため、福知山市動物園の協力を得てシロテナガザル「福ちゃん」にヘリウムガスを吸ってもらい、その音声を分析しました。その結果、ヘリウムガスを吸った人が高い変な声になるのと同様の音声変化が見られたことから、テナガザルはヒトと同じように、喉にある声帯を呼気で振動させてつくった音を声道内の空気に共鳴させて発声していることが確認されました。さらに詳しい分析によって、テナガザルは、声帯で高い音源を作り出し、それを声道の一番共鳴しやすい高さに合わせていることが分かりました。これはヒトのソプラノ歌手が歌うときの仕組みと同じなのだそうです。
西村准教授らがこの研究を行った目的は、ヒトが進化の過程で音声言語を獲得する際に、喉や舌などの音声器官に大きな形態変化があったのかどうかを調べることにありました。今回の結果により、ヒトが音声言語を獲得する際には、音声器官の大がかりな形態進化は必要とされず、霊長類が共通に持っている音声器官をどう使うかという運用面の変化がより重要な貢献を果たしていることが示されました。
この研究成果は、Wiley-BlackwellのジャーナルAmerican Journal of Physical Anthropologyで論文として報告されました。
⇒ Koda, H., Nishimura, T., Tokuda, I. T., Oyakawa, C., Nihonmatsu, T. and Masataka, N. (2012), Soprano singing in gibbons. Am. J. Phys. Anthropol.. doi: 10.1002/ajpa.22124
また、下のリンク先では、今回の研究の詳しい解説が読めるだけでなく、シロテナガザルの福ちゃんの通常の声と、ヘリウムガスを吸った時の声を聴き比べることができます。
⇒ 京都大学霊長類研究所: テナガザルにおけるソプラノ歌唱