かつて、飲酒は喫煙と並んで不健康な行為の代表のように見られていましたが、最近では、節度のある飲酒は心臓病のリスクを下げるので、全く飲まないよりもむしろ健康に良いと言われるようになってきました。中でも赤ワインは、抗酸化作用を持つポリフェノールを多く含むので体に良いとして、TVの健康番組などで盛んに推奨されています。しかしこれらの説には、本当に科学的な裏付けがあるのでしょうか、それとも根拠のない俗説に過ぎないのでしょうか? オーストラリア・ワイン研究所の研究者が、これまでの研究調査から得られたデータに基づき、こういった説の根拠を確かめる総説論文をJournal of the Science of Food and Agricultureに発表しました。
⇒ Stockley, C. S. (2012), Is it merely a myth that alcoholic beverages such as red wine can be cardioprotective?. J. Sci. Food Agric., 92: 1815–1821. doi: 10.1002/jsfa.5696
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この論文によると、適度な飲酒が心臓病の発症を抑えるという説には十分な根拠があるようです。飲酒と心臓病発症との関連を調べた長期的調査のデータを総合すると、1日あたり2.5~14.9gのアルコールを摂取する人は、全く飲まない人と比べて心臓病のリスクが14~25%低くなるという結果が出ています。別の調査では、1日あたり30gのアルコール摂取によって、冠状動脈性心臓病の発症リスクが24.7%下がりました。
飲み方としては、適量を多くの日数に分けてコンスタントに飲むのが健康に良いようです。ある調査では、週3日以上適量の飲酒をする人は、週1日以下しか飲まない人よりも心臓病リスクが低くなることが示されました。一方、合計すると同じ飲酒量であっても、少ない日数で一回にまとまった量を飲む人は、多くの日数に分けて少しずつ飲む人より心臓病リスクが高くなることが明らかになっています。また、普段適量を飲んでいる人でも、時々暴飲してしまうと、本来の心臓病防止効果が失われてしまうそうです。
また、穀類・ナッツ・果物・野菜・ワインなどを中心とする最近話題の「地中海ダイエット」は、心臓病やメタボリック症候群のリスク改善効果が認められています。特に、全体として心臓病発生率の低いスペインの中でも、ワインをあまり飲まない地域ではよく飲む地域と比べて心臓病発生率が比較的高いことから、地中海ダイエットの中でワインが何らかの良い役割を果たしていると見てよさそうです。
一方、赤ワインブームを巻き起こした「ポリフェノールの抗酸化作用」については、フェノール類の抗酸化作用が確認されたのは試験管内での実験に留まり、生体内では確認されていないとして、その効果に否定的です。赤ワインに含まれるフェノール類自体は、試験管内や動物を使った実験で、心臓病リスクと関連する指標を改善することが確かめられていますが、そのメカニズムには抗酸化作用とは別の説明が求められるようです。