雨に強く、維持管理が容易といった利点から野球スタジアムなどで広く利用されている人工芝ですが、登場以来、材料科学によるさまざまな改良が加えられてきています。ポリアミド繊維を使った初期の人工芝は、耐久性に優れますが、下が硬いために足に負担がかかったり、スライディングした際に火傷や擦過傷を生じやすいことが難点でした。その後、砂などの充填剤を加えてクッション性を高めたり、火傷・擦過傷を起こしにくいポリエチレン繊維をポリアミドの代わりに用いるなどの改良が重ねられましたが、前者は充填剤のメンテナンスが必要になり、後者は耐久性に劣ることが弱点です。
スイスの材料科学研究機関EMPAの研究チームは、従来の人工芝の欠点を克服するため、ポリアミド繊維の周囲をポリエチレンで覆った新しい複合材料による人工芝を開発しました。この新型の人工芝は、プレーの快適さや外見において天然芝に近く、耐久性に優れ、しかも充填剤が不要と、人工芝に求められる条件をクリアしています。既にメーカーによって製品化され、いくつかの競技場に導入済みとのことです。今後の改良に向けては、天然芝と比べて晴天時に温度が上がりやすい点が課題として残されていますが、現段階でも理想の人工芝に向けて大きく前進したといってよいかもしれません。
この成果は、Macromolecular Materials and Engineering誌に論文として発表されました。 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
⇒ Hufenus, R., Affolter, C., Camenzind, M. and Reifler, F. A. (2012), Design and Characterization of a Bicomponent Melt-Spun Fiber Optimized for Artificial Turf Applications. Macromol. Mater. Eng.. doi: 10.1002/mame.201200088
また、この成果についての紹介記事を、材料科学のニュースサイトMaterials Viewsでお読みいただけます。
⇒ Materials Views - Artificial Turf With Reduced Skin Abrasion Facilitates Slide Tackles