自然界の生物の構造や機能をまねて新しい技術の開発に生かすバイオミメティクス(生体模倣技術)の手法を使った研究が増えていますが(例: <論文紹介> ヤモリの足裏を模倣した強力な接着材料 - 米大学の研究チームが開発に成功)、今回ご紹介するのもその一環で、今回はヤモリではなくカエルの足指の模倣による材料研究です。
⇒ Drotlef, D.-M., Stepien, L., Kappl, M., Barnes, W. J. P., Butt, H.-J. and del Campo, A. (2012), Insights into the Adhesive Mechanisms of Tree Frogs using Artificial Mimics. Adv. Funct. Mater.. doi: 10.1002/adfm.201202024
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アマガエル、モリアオガエルのように樹上に棲むカエル(tree frogs)は、足の指先に吸盤を持ち、濡れて滑りやすい木の上を自在に動き回れます。この仕組みは、細かい繊毛の働きで乾いた表面に貼りつくことのできるヤモリの足裏とは異なります。カエルの場合、指先の表面は細かい溝で囲まれた大きさ10 - 15 μmの六角形の上皮細胞で覆われ、さらに一つ一つの上皮細胞の表面は直径わずか300 - 400 nmの細かい支柱状に枝分かれして、凹形にくぼんだ形をなしています。また足指のあちこちには分泌液を出す小さな穴がありますが、分泌液の性質と役割は明らかになっていません。
カエルの足指の接着メカニズムについてはいろんな説がありましたが、実験で確認された証拠に乏しく、十分に解明されていませんでした。今回Advanced Functional Materials誌で研究結果を報告したマックスプランク高分子研究所を中心とするグループは、シリコンウェハーを材料として、カエルの指先を模倣した形状となるよう加工しました。さまざまに条件を変えて実験した結果、カエルの指先のような微細構造は、分泌液を出したときのように濡れた状態では、粘着力を高めるのにほとんど役立たなかったのに対し、表面に沿って働くせん断応力(摩擦力)を大きく高めることが確認されました。このことから、カエルの足指は、濡れた木の表面をせん断応力(摩擦力)を使って登れるよう発達したと考えられます。著者らは、この研究が濡れた表面上での滑りを防ぐメカニズムの解明に役立ち、雨天でもスリップしないタイヤや靴底の開発に応用されることを期待しています。