米スローン・ケッタリング癌研究所のSamuel Danishefsky教授のラボを中心とする研究グループが、赤血球の産出を促進するホルモンであるエリスロポエチン(erythropoietin = EPO)の全合成に初めて成功しました。
⇒ Wang, P., Dong, S., Brailsford, J. A., Iyer, K., Townsend, S. D., Zhang, Q., Hendrickson, R. C., Shieh, J., Moore, M. A. S. and Danishefsky, S. J. (2012), At Last: Erythropoietin as a Single Glycoform . Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201206090 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
EPOは主に腎臓で産生し、骨髄に働きかけて赤血球の産出を促す重要な役割を持つホルモンで、貧血の治療薬として非常に有用です。一方、スポーツ選手がパフォーマンスを高めるためのドーピングに使用することもあり、しばしば問題になっています。現在、EPOは細胞培養技術によって製造されていますが、化学合成をめざしてさまざまな試みがなされています。しかし、EPOは糖鎖の構造が異なるグリコフォームを作りやすいため、均一・純粋なEPOの分子を取り出すことはこれまでできませんでした。
Danishefsky教授らは、十年を要して純粋なEPOの全合成を達成しました。その歳月への思いが、論文の表題の”At Last”という言葉に込められているようです。合成されたEPOは、幹細胞を使った実験で、天然のEPOと同様の赤血球産生促進作用を持つことが確認されました。
今回の成功で、EPOの化学合成による製造に向けて弾みがつくだけでなく、今回使われた複雑な天然物を合成するための高度なテクニックが、他の化合物の合成にも広く応用されるようになることが期待されます。
■ 化学ニュースサイトChemistry Viewsによる解説記事 ⇒ Artificial Blood Maker: EPO