東北大の有機化学者 故・野副鉄男博士が残した1200頁のサイン帳をThe Chemical Record誌が復刻公開|ノーベル賞受賞者32人ら世界の化学者との交流を伝える貴重な記録

戦前の台湾で台北帝国大学教授を務めた後、戦後は東北大学理学部教授として活躍し、ヒノキチオールの発見をはじめトロポノイド化学の発展に偉大な足跡を残した有機化学者・野副鉄男博士(右写真・1902-1996年)は、1953年に4か月にわたって欧米各地を訪問しました。まだ海外旅行がきわめて珍しかった時代で、博士にとっても台湾以外の国を訪れるのは51歳にして初めてでしたが、各地で歓待を受け、講演や研究機関の訪問を通じて多くの化学者と交流を深めたそうです。

博士は、この旅行にサイン帳を携え、旅先で出会った化学者たちにサインを書いてもらいました。帰国後も博士はサイン収集を続け、約40年間にわたって、交流のあった世界各国の化学者から、数千にのぼるサインを集めました。

全9冊・約1200頁にもなる大部で残されたサイン帳は、学識と人柄によって世界中の化学者から敬愛された野副博士の幅広い交友関係を反映して、E. J. Corey博士、野依良治・理化学研究所理事長ほか、少なくとも32人のノーベル賞受賞者のサインを含む、貴重な歴史的資料となっています。通常のサインに加えて、博士へのメッセージや、中にはお互いが関心を持っていたらしい化合物の構造式や反応まで書き込まれたものもあり、興味深く読むことができます。(化学ニュースサイトChemistry Viewsで一部を公開中。まだ右のコラージュ写真でも一部を見ることができます)

この野副博士のサイン帳が、日本化学会の英文誌The Chemical Record(Wiley-VCHとの共同出版)に15回に分けて復刻収録されるとともに、ウェブで公開されることになりました。現在、第1部として68ページが公開されています。

博士のサイン帳は、The Chemical RecordにPDFで収録されるのと並行して、特設サイトでデータベースとして公開されます。
 ⇒ 特設サイト The Nozoe Autograph Books (少なくとも3年間は無料公開の予定)

  1. サイン帳を1ページずつ見ていくには、Browse and recognize signatures NOW またはその下のパイチャートをクリックして下さい。(右の図の①) 人名を検索したり(判明分のみ)、指定したページ指定にジャンプすることもできます。
  2. 人名・機関名のリスト(判明分のみ)からサインを探すには、Indexをお使い下さい。Autograph Page Overview からは、判明している書き手などの情報をコメント一覧として見ることができます。(右の図の②)

収録されたサインには、いつ誰によって書かれたものか特定できていないものが多数あります。もしそのようなサインで書き手を判別できたものがあれば、ぜひコメントとして書き込んで下さい。記入方法は以下に説明されています。
 ⇒ The Nozoe Autograph Books: Instructions for Data Entry Website

Jeffrey I. Seeman教授

今回、この貴重な史料を後世に残すためのプロジェクトの中心となったのは、米リッチモンド大学のJeffrey I. Seeman教授です。Seeman教授は、化学者としての仕事と並行して出版活動にも精力的に取り組み、ACSから出版された化学者の自伝叢書Profiles, Pathways and DreamsではEditorを務めました。その叢書の中の1冊が野副博士によるSeventy Years in Organic Chemistryで、同書の出版を通じて博士との親しい付き合いが始まったそうです。Seeman教授による下のエッセイでは、野副博士との交流や、今回の復刻プロジェクトの背景について詳しく書かれています。
 ⇒ Seeman, J. I. (2012), Bonding Beyond Borders: The Nozoe Autograph Books and Other Collections . Chem Record, 12: 517–531. doi: 10.1002/tcr.201200017 (無料公開)

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