中南米の山地に棲むプラチナコガネは、金属のような光沢を持つユニークな甲虫です。種類や個体によって、文字通りプラチナのような銀色や、金・赤・緑などさまざまな色を持っていますが、そのうちレスプレンデンス(Chrysina resplendens)という種類は美しい金色が特徴です。
このほどヒューレット・パッカード社研究所の研究グループは、このレスプレンデンスが光沢を放つ仕組みを液晶ポリマーを使って模倣し、高反射フィルムとして製造することに成功、Advanced Materials誌に論文として発表しました。右の写真は、一方が本物のレスプレンデンス、もう一方が人工的なフィルムですが、形をよく見ないと区別がつかないくらいそっくりですね。
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⇒ Matranga, A., Baig, S., Boland, J., Newton, C., Taphouse, T., Wells, G. and Kitson, S. (2012), Biomimetic Reflectors Fabricated Using Self-Organising, Self-Aligning Liquid Crystal Polymers. Adv. Mater.. doi: 10.1002/adma.201203182
分子がらせん構造をなす「コレステリック液晶」は、らせんと同じ向きの円偏光を反射し、逆向きの円偏光を透過する性質を持ちます。同グループは、コレステリックな液晶ポリマーの二層の薄膜の間に、偏光の方向を180度回転させる半波長リターダを挟んだ3層構造のフィルムを製造しました。自然光のようにランダムな偏光が混じった光がこのフィルムが当たると、コレステリック液晶の1枚目の層はらせんと同じ向きの円偏光を反射、透過した光のうち逆向きの円偏光は、次の半波長リターダの層を通るときに向きが逆転し、2枚目のコレステリック液晶に反射します。このようにして両方の向きの円偏光を反射することができるので、このフィルムは高性能の反射を実現することができます。実はこの3層構造の仕組みが、レスプレンデンスの表皮の構造をそっくり真似たものなのだそうです。近年活発になっている、自然界の生物を模倣して技術開発に応用するバイオミメティクス(生物模倣)の好例といえます。
高反射フィルムは、照明の反射板、太陽光発電のための集光用、液晶ディスプレイの輝度向上など多くの用途に使われています。今回示された方法を工業化できれば、高性能の反射フィルムの大量生産が実現すると期待できます。