「著者が語るWiley新刊」第3回では、佐藤 哲男先生(薬学博士、千葉大学名誉教授、昭和大学客員教授、内閣府認証NPO法人HAB研究機構付属研究所長)からご寄稿をいただきました。佐藤先生を共編者のお一人として昨年12月に刊行されたAnticholinesterase Pesticides: Metabolism, Neurotoxicity, and Epidemiology をご紹介いただきます。
Anticholinesterase Pesticides: Metabolism, Neurotoxicity, and Epidemiology
Tetsuo Satoh and Ramesh C. Gupta (Editors)
ISBN: 978-0-470-41030-1
Hardcover / 625 pages / December 2010
価格 US$149.95
■ 本書のフライヤー(PDF)
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本書は、2007年に米国John, Wiley & Sons 社からの要請により企画されたものである。2008年に最終的に決まったTable of Contentsが当初の予定より大幅に上回ったため、Ramesh Gupta教授(米国)に編集協力を依頼した。当初の出版予定は2009年であったが、できるだけ最新の情報と、詳細な統計情報を掲載することに重点をおいたため、予定より遅れて2010年12月にようやく刊行した。
本書は、5編、42章、625ページから構成されており、世界各国の著名な農薬研究者、毒性研究者97名が執筆している。
冒頭に、農薬研究者として国際的に高名なカナダのDonald J. Ecobichon教授が序文を贈ってくれた。また、ここでは、多くの農薬の中から、最も使用頻度の高い有機リン系(OP)とカーバメート系(CM)を対象とした。
本書の特徴は次の通り要約される。
PART I. METABOLISM AND MECHANISM
農薬中毒に最も関わっているAcetylcholinesteraseや、OP、CMの代謝にかかわるCarboxylesteraseの分子多様性、組織内局在性、遺伝子配列、発現機序などについて最先端の情報が提供されている。また、ある種のOP中毒にみられる遅発性神経毒性delayed neuropathyに関係すると考えられているNeuropathy Target Esterase(NTE)についても、分子レベルから解説されている。
PART II. TOXICITY AND BIOMARKERS
ここでは、OPよびCM中毒の原因としての酸化ストレスOxidative stressやアポトーシスの関与、OPによる神経毒性の発現機序などについて最新の情報が詳述されている。一方、OP中毒を早期に検出するための高感度バイオマーカーの開発、有用性についても紹介されている。
PART III. EPIDEMIOLOGY
日米に加えて14カ国の開発途上国について、最新の農薬中毒データが紹介されている。この様な、科学的情報に基づく農薬中毒の国際的な疫学調査はおそらく初めてである。
PART IV.REGULATORY ASPECTS
フィンランド国立環境研究所のKai Savolainen教授が、行政の立場から農薬毒性のRisk Assessment, Risk Managementの現状を詳述し、そのあり方について提案している。
PART V. MEDICAL TREATMENT OF POISONING WITH ORGANOPHOSPHATES SND CARBAMATES
OPやCM中毒時にみられる症状は、体内に取り込まれた量や経過時間により大きく異なる。ここでは、長年にわたり農薬中毒患者の救急医療に当たってきたセルビア共和国中毒センターのMilan Jokanovic博士が、その効果的治療法について述べている。
本書では、出来るだけupdateな情報を掲載することに努めた。したがって、本書は各国の農薬研究者、神経化学研究者、毒性学研究者において有益な情報源として有効活用されることを期待している。