ビールの話題に続いて、今度はワインについての研究です。
ワイン好きの人はご存知のように、赤ワインを飲む前に、ボトルからデキャンタと呼ばれる容器に移し替えてしばらく空気に触れさせる「デキャンタージュ」を行うことがあります。デキャンタージュによってワインの味がまろやかになるとされていますが、もっぱら経験的にそう言われてきただけで、前後の変化を科学的に分析した研究はほとんどありませんでした。
中国・Shenyang Pharmaceutical Universityの研究グループは、赤ワインに含まれる20の主要な成分がデキャンタージュによってどのように増減するかを液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS)で調べ、その結果を分析化学の雑誌Journal of Separation Scienceで報告しました。
⇒ Cui, Y., Li, Q., Liu, Z., Geng, L., Zhao, X., Chen, X. and Bi, K. (2012), Simultaneous determination of 20 components in red wine by LC-MS: Application to variations of red wine components in decanting. J. Sep. Science, 35: 2884–2891. doi: 10.1002/jssc.201200305 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
分析の対象になったのは、赤ワインに含まれる4種の有機酸と、16種のポリフェノールです。有機酸は赤ワインに酸味を、ポリフェノールは渋味をそれぞれ与える成分です。分析の結果、デキャンタに入れてから時間の経過とともに、ほとんどの有機酸・ポリフェノールが減少していくことが確認され、酸味と渋味が減って味がまろやかになる効果を裏付けました。
またデキャンタージュ時の条件を変えた実験では、温度を上げると有機酸・ポリフェノールとも減少が加速するのに対し、照明の明るさを増した場合は、ポリフェノールの減少は速まる一方、有機酸の減少速度はほとんど変わらないことが明らかになりました。こういった厳密な定量的分析は、ワインの生産・管理技術の改善に役立つかもしれません。