電子材料・医薬品などさまざまな用途で注目が集まるC60フラーレンですが、水や有機溶媒に溶けにくいことが応用上のネックになっています。そのため、C60フラーレンをγ-シクロデキストリン(γ-CD)で包接したバイキャップ型錯体を形成すると水に溶けやすくなる現象が注目され、盛んに研究されています。しかし、この包接錯体は極性の高い溶媒である水には溶けやすい一方、低極性・非極性の有機溶媒には不溶という性質を持ちます。このことがC60フラーレンを有機溶媒中で官能基化するなどの反応を実現する上で障害となっているため、C60フラーレンまたはその類似物質を低極性・非極性有機溶媒に溶けやすくする方法の開発が強く待たれていました。
このほど大阪大学大学院工学研究科・南方 聖司教授の研究室は、γ-CDにオルガノシリル基を導入したものをホスト分子としてC60フラーレンを包接することにより、さまざまな低極性・非極性有機溶媒への見かけの溶解度が大幅に高まることを確認し、Asian Journal of Organic Chemistry (Asian JOC)で報告しました。例えば、クロロホルム(CHCl3)への見かけの溶解度は、C60単体の溶解度の226倍に向上しました。
⇒ Takeda, Y., Nagamachi, T., Nishikori, K. and Minakata, S. (2012), An Inclusion Complex of C60 with Organosilylated γ-Cyclodextrin: Drastic Enhancement of Apparent Solubility of C60 in Nonpolar and Weakly Polar Organic Solvents. Asian Journal of Organic Chemistry. doi: 10.1002/ajoc.201200160 (本文を読むにはアクセス権が必要です。Asian JOCは、2013年中は機関単位でのお申込みにより無料アクセスが可能です。ご所属機関の図書館を通じて、オンラインフォームからお申込み下さい。)
この包接錯体は、シリカゲルを使って分解し、元の単体C60フラーレンに容易に戻すことができます。従って、γ-CDがC60を選択的に包接する性質を利用して、C60とC70の混合体からC60を効率的に分離精製できることも確認されました。さらに、この包接錯体を有機溶媒に溶かした後に乾燥させて、薄膜を作ることにも成功しました。そこからγ-CDを選択的に除去することができれば、フラーレンの高密度の薄膜を効率的に製造することができるようになります。このように、今回の発見はフラーレンの官能基化反応や加工において幅広い応用可能性を持つものとなりそうです。
■ この成果は、化学ニュースサイトChemistry Viewsでも紹介されています。
⇒ Chemistry Views - C60 Inclusion Complex with Organosilylated γ-Cyclodextrin