当ブログの記事「気温が上がると汗をかく建築材料! 気化熱効果で夏も快適に?」で昨年取り上げた、一定以上の高温になると親水性から撥水性に転じる温度応答性ポリマー「ポリイソプロピルアクリルアミド」(poly-N-isopropylacrylamide = PNIPAAm)を、空気中から水を集めるために使おうという新しい研究がAdvanced Materials誌で発表されました。
⇒ Yang, H., Zhu, H., Hendrix, M. M. R. M., Lousberg, N. J. H. G. M., de With, G., Esteves, A. C. C. and Xin, J. H. (2013), Temperature-Triggered Collection and Release of Water from Fogs by a Sponge-Like Cotton Fabric. Adv. Mater.. doi: 10.1002/adma.201204278 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
アイントホーフェン工科大学(オランダ)と香港理工大学の共同研究チームは、スポンジ状のコットン(綿)の表面をPNIPAAmでコーティングする加工を行いました。未加工・加工後のコットンを、ともに23℃の高湿の空気中に置いて比較したところ、未加工のコットンが自重の18%しか水分を吸収しなかったのに対し、加工後のコットンは自重の340%もの水分を吸収し、PNIPAAm加工による親水効果をはっきりと示しました。
一方、気温を34℃に上げると、PNIPAAmは撥水性に転じるため、コーティング加工後のコットンの吸水率は24%へと大幅に低下し、未加工コットンの13%と目立った差がなくなりました。保持できなくなった水分は、コットン繊維の表面に細かな水滴として放出されることが確認されました。また実験では、温度の上下により水の吸収・放出を繰り返しても、材料の性質が劣化しないことも確かめられました。
自然界では、砂漠に棲む一部の甲虫が体の表面で結露水を集めたり、クモが巣についた水滴を集める生態が確認されていて、それらが今回の研究のヒントになったそうです。安価で製造も容易なPNIPAAm加工コットンが持つこの特性を利用すると、砂漠や山岳地帯など水の入手が困難な場所で、夜間の湿った空気から水分を蓄えさせておき、暑い昼間に清潔な水として手に入れるのに役立つかもしれません。参加した研究者らは、この材料を「夜間に水を集められるキャンプ用テント」や「汗をかいても濡れないスポーツウェア」などに転用することを考えているほか、吸水性の向上や親水/撥水の境界となる温度の調節といった改良もめざしているそうです。
(参考: アイントホーフェン工科大学の広報ページ
Cotton with special coating collects water from fogs in desert, 21 January 2013)