接着剤でくっつけた物体を水中に入れると、接着面に水分子が入り込んで、接着力を弱めてしまいます。水中で利用できる接着剤の実現は、長年の課題のひとつとして各国の化学者が取り組んできました。特に、貝など水中生物の接着機能をまねる「生物模倣」の手法が有望視されてきました。
そんな中、浦項工科大学校 (Pohang University of Science and Technology)の研究グループは、超分子による「マジックテープ」(英語名Velcro)という新しいアプローチによる水中接着に成功し、その成果をAngewandte Chemie International Edition (ACIE)で報告しました。
⇒ Ahn, Y., Jang, Y., Selvapalam, N., Yun, G. and Kim, K. (2013), Supramolecular Velcro for Reversible Underwater Adhesion . Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201209382 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
同グループは、一対のテープ状のシリコンを用意し、片方にホスト分子として大環状分子cucurbit[7]urilを、もう片方にゲスト分子としてアミノメチルフェロセンをそれぞれ接合しました。両者を押し付けると、環状構造を持つ前者の分子の穴の部分に後者の分子がはまり込み、あたかも分子スケールの「マジックテープ」のように接着を実現しました。くっついた「マジックテープ」は、1cm四方の大きさで水中では2kg、乾燥後の空気中では4kgの荷重に耐える接着力を持つことが確認されました。また接着後も、力づくで引き剥がし、何度も再利用できることも分かりました。
接着時に試薬を必要とせず、また剥がして再利用できるといった利点は、生物模倣などによるこれまでの水中接着剤にはないものであり、新しい可能性を秘めたアプローチとして今後の研究が期待されます。
■ この成果は、化学ニュースサイトChemistry Viewsで紹介されています。
⇒ Supramolecular Velcro for Underwater Adhesion
□ またこの論文は、ACIEで二人の査読者が特に重要性を認めた注目論文VIP (Very Important Paper)に選ばれました。
⇒ VIP: Supramolecular Velcro for Reversible Underwater Adhesion