<論文紹介> 微生物の力で廃棄物を有用な資源へ|バイオディーゼル製造で発生するグリセリンをバイオプラスチックに変換する技術(総説)

植物油などを原料とするバイオディーゼル(生物由来のディーゼルエンジン用燃料)は、化石燃料の代替として期待されている燃料のひとつです。しかしバイオディーゼルの普及には、製造工程で副生成物として大量に発生するグリセリンの処理が大きな課題となっています。2011年の米国だけを見ても、バイオディーゼルの製造から約40万トンのグリセリンが発生しているそうです。グリセリン自体は、化粧品や食品・製薬などの分野で幅広い用途を持っていますが、バイオディーゼルの製造から生まれるグリセリンには不純物が多く混じっているため、高いコストをかけて精製しない限り利用できないのが難点です。

そこで現在注目されているのが、このグリセリンを微生物によってバイオプラスチックに変換する技術です。ある種の微生物は、炭素源が豊富でも酸素や窒素が乏しい環境に置かれると、エネルギー貯蔵のためにポリヒドロキシアルカン酸(PHA)という生物由来のプラスチック(バイオプラスチック)を作り出すことが分かっています。生分解性プラスチックであるPHAには、医療用インプラントの材料としての利用が期待されています。これまで経済的な理由から用途がなかったグリセリンを活用できるようになることは、廃棄物の大幅な削減を意味します。またバイオディーゼルの製造業者にとっては、これまでコストを要していたグリセリンの処分が不要になり、逆に有用な資源として転売できるようになれば、バイオディーゼルの製造コストが下がり、低価格で普及させることができるようになります。

この有望な技術の鍵を握るのは、グリセリンからPHAの変換効率を上げることで、そのために各国の研究者が、遺伝子工学による微生物の改良にしのぎを削っています。このほど米シラキュース大学のChristopher T. Nomura准教授らがJournal of Applied Polymer Scienceに発表した総説では、この技術の実用化に向けて進められてきたさまざまな研究の成果を取り上げ、この研究分野の最新状況を解説しています。
 ⇒ Zhu, C., Chiu, S., Nakas, J. P. and Nomura, C. T. (2013), Bioplastics from waste glycerol derived from biodiesel industry. J. Appl. Polym. Sci.. doi: 10.1002/app.39157 (無料公開)

■ この論文の内容は、The Wiley Life Sciences Blogで紹介されています。
 ⇒ Bioengineering Bioplastics from Biodiesel Industry Waste (The Wiley Life Sciences Blog)

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