Chem-Stationさんが先日「実験化学のピアレビューブログ: Blog Syn」で取り上げた、合成反応の再現性を検証するサイトBlog Synについて、化学ニュースサイトChemistry Viewsが興味深い記事を掲載しています。
⇒ Let Those Without Syn Cast the First Post (Chemistry Views)
今年1月にスタートしたばかりのBlog Synですが、これまでに取り上げた反応のひとつに、Phil Baran, K. C. Nicolaouらが2002年にJACSで報告したIBXによるベンジル位酸化反応があります。Blog Syn主宰者らによる追試では、この反応はまったく起こらないかきわめて低い収率に留まり、Blog Synはこの反応に「再現困難」との評価を与えました。この結果は、ブログ読者や他のブログから大きな反響を呼んだそうです。
しかし話はそこで終わりませんでした。そのことを知ったBaran教授らは自ら追試を行い、当初の報告通り高い収率を示すことを確認したうえで、実験手順を詳細に記述した報告をBlog Synに届けました。後日談を書いたBlog Synのエントリーによると、Baran教授らの成功の秘密は、論文からは読み取れなかった「水を加える」という手順の有無にあったそうです。Blog Synは、Baran教授らの率直さとプロフェッショナリズムに謝意を示すとともに、反応への評価を「最適化により再現可能」に変更しています。スター化学者を巻き込んでの騒動になりかねなかったこの問題は、ハッピーエンドで解決を見たようです。
Blog Syn主宰者は、Chemistry Viewsの記事でインタビューに答えて、自分たちは「魔女狩り」をしているのではなく、優れた反応が誰の手によっても成功するようになることを望んでいるだけだ、とブログの目的を説明しています。Baran教授も、Blog Syn宛に送ったメールの中で「あなたのブログは化学コミュニティに対して、実験手順の詳細を記録することの重要性を思い出させるだろう」として、その趣旨に理解を示しています。