<記事紹介> フラーレンC60発見の歴史 - クロート教授らより一年早くC60を検出したグループは、大発見に気付かなかった (Chemistry Views)

化学ニュースサイトChemistry Viewsに昨日掲載された記事は、サッカーボール型の構造を持つ炭素分子フラーレンC60(バックミンスターフラーレン)発見の歴史を解説しています。
 ⇒ Like a Detective Story: The Discovery of C60 (Chemistry Views)

その中で、有機化学美術館さんのブログ記事でも紹介されている興味深いエピソードが取り上げられています。1985年にクロート教授らがC60を発見する前年、エクソン社の研究グループが炭素クラスターの質量スペクトルを論文で発表しました。今回の記事によると、そのスペクトルの中にはC60の存在を示す強いシグナルが現れていたのですが、エクソン社のグループが関心を持っていたのはもっと小さな炭素クラスターだったため、C60の存在に注意を向けることなく終わりました。

その背景には、今となっては信じにくいかもしれませんが、当時の化学界がC60にほとんど注目していなかったという事情があるようです。C60は、1970年に豊橋技術科学大の大澤映二教授が存在を予言し(日本語でのみ発表)、1973年にはソ連のグループが電子状態の計算結果をロシア語で発表していましたが、世界的には関心が広がっていませんでした。エクソン社のグループの翌年、1985年にC60の発見を報告したクロート教授らは偉業を讃えられ、1996年にノーベル化学賞に輝きますが、もしエクソン社のグループがC60のシグナルが持つ意味の大きさに気付いていたら、運命は大きく変わっていたかもしれません。

■ 参考: クロート教授自身が発見の経緯を綴ったレビュー(ACIE・1992年) C60: Buckminsterfullerene, The Celestial Sphere that Fell to Earth (本文を読むにはアクセス権が必要です)

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