火山学分野で世界的な第一人者とされるSteve Sparks教授(英ブリストル大学)が、電子出版の時代にふさわしい新しい論文出版のあり方を提案するコラムを、American Geophysical Union(AGU, アメリカ地球物理学連合)の会報Eosに寄稿しています。
⇒ Sparks, R. S. J. (2013), Opportunities for Innovative Publishing in the Electronic Age?, Eos Trans. AGU, 94(12), 116. (PDF・無料公開)
Sparks教授の提案のひとつは、論文の出版後に見つかった誤りを元の論文で修正可能にすることです。そのような場合、後の号にErrata(修正報告)を掲載するのが通常の慣行ですが、元の論文の読者がErrataの存在を見逃してしまう事態も当然起こりえます。同教授は、Errataは紙の雑誌で論文を出版していた時代の古い慣行であって、電子出版の時代になってまで縛られる必要はなく、元の論文自体を修正すればいいのではないかと考えます。もちろん、一旦査読を通過して公開された論文が、著者の一存で好きなように変更されては混乱の極みとなります。Sparkes教授は、修正にも一定の査読を必要とするが、誤植や細かい計算ミスのような軽微な修正(カテゴリー1)は簡単な査読で済むようにする一方、より重大な欠陥や誤りの修正(カテゴリー2)には本格的な査読を求めるというように、修正内容の重大さによって段階分けすることを提案しています。
Sparks教授はさらに踏み込んで、論文の出版後に結論を補強する追加データが得られたり、別の解釈の可能性が見つかったりした場合に、著者が論文を書き直して改訂履歴を残す”Versioning”を可能にすることも提案します。従来であれば、新しいデータに基づいてもう一報の論文を書くところですが、同教授は、ごく一部だけを変えた同じような論文を何報も出して研究業績を増やす”shingling”と呼ばれる悪しき慣行が目立つ中、同じ一報の論文を改訂してより良くしていくVersioningの方が好ましいと考えます。
Sparks教授は、Versioningのアイディアに対して「どうやって複数の版を管理するのか」といった批判が出ることを予想しつつ、単に「これまで(紙の雑誌の時代に)こうやってきたから」という固定観念から批判するのではなく、電子出版がもたらした新しいチャンスを活用する方向で考えてほしいと訴えています。論文出版の慣行を変えるこの提案、皆さんはどう考えますか?