工場や自動車、家電製品など、使用するエネルギーの一部を熱として排出するものは身の回りに多くあります。利用されずに捨てられるこういった「廃熱」を回収して電気に変換できれば、エネルギーの有効利用につながります。そのため、熱(温度差)から電気を生み出す「熱電変換素子」に適した熱電変換材料の研究が注目されています。
このほどテキサスA&M大学の研究グループは、カーボンナノチューブ(CNT)と高分子をベースにしたナノ複合材料を開発し、有機系の熱電変換材料としてはこれまでで最高の性能を実現しました。
⇒ Moriarty, G. P., Briggs, K., Stevens, B., Yu, C. and Grunlan, J. C. (2013), Fully Organic Nanocomposites with High Thermoelectric Power Factors by using a Dual-Stabilizer Preparation. Energy Technology. doi: 10.1002/ente.201300018 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
■ 掲載誌Energy Technologyは、2013年に創刊された新しいジャーナルで、2014年末までの2年間は機関単位での申し込みにより無料アクセスが可能です。詳しくはこちらの記事をご覧下さい。
これまで熱電変換材料の主流となってきたのは、ビスマス(Bi)、テルル(Te)などを用いる無機系の材料でした。しかしBi, Teのようなレアメタルには供給量や価格の面で問題があるほか、無機系材料には重量・毒性などの懸念がつきまといました。こういった難点を克服するために、有機系の熱電変換材料の実現に向けて活発な研究が行われています。
今回同グループが開発に成功した有機系材料は、導電率は96,000 S/m、ゼーベック係数は70 μV/K(いずれも最大)と、有機系では最高水準の性能を示し、また出力因子は500 μW/mK2と、純粋な有機系材料としてはこれまでで最高を記録しました。無機系材料の性能にはまだ及びませんが、今後の研究による性能向上が期待されます。
この新材料は、無機系材料と違って軽量でフレキシブルなため、例えば繊維に加工して衣服に埋め込み、体温から発電するといった使い方も考えられるそうです。外出先で多くの人を悩ませるスマホのバッテリー切れですが、将来はスマホを服につないで、体温で充電するのが主流になるかもしれません。
■ この成果は、化学ニュースサイトChemistry Viewsで紹介されています。
⇒ Your Body Heat, Your Clothing, Your Electricity? (Chemistry Views)