Sense About Scienceは、英国を拠点として国際的に活動する非営利団体で、一般市民が日々の生活の中で接する科学的・医学的な議論を正しく理解できるよう支援することを目的としています。ノーベル賞受賞者から大学院生まで6千人もの科学者のネットワークから必要な専門知識の提供を受けるとともに、学会・研究機関・学術出版社(Wileyもその一つ)から財政的支援を得て運営されています。同団体のManaging Directorを務めるTracey Brown女史が、WileyのDavid Nicholsonのインタビューに答えてその活動内容を語っています。
⇒ Interview with Tracey Brown, Managing Director, Sense About Science (Exchanges blog, February 13, 2013)
このSense About Science、科学的知識の普及を図る一般的な啓蒙団体とは一味違う、ユニークな取り組みを行っています。テレビで絶えず流れる健康法や健康食品についての番組・CMに代表されるように、商品の宣伝コピー、新聞記事、政府の政策などに、一見科学的・医学的な裏付けがありそうで実は不確かな主張が含まれることは珍しくありません。Sense About Scienceが最近最も力を入れているキャンペーンAsk for Evidenceでは、「二日酔いを治す奇跡のパッチ」についての新聞記事や「十歳若返って見える化粧クリーム」という宣伝コピーなど根拠の曖昧な情報の発信者に対して、市民が自ら「その科学的根拠は?」と問い質す活動を支援しています。同団体のウェブサイトでは、企業などへのコンタクト方法のアドバイス、問い合わせ用の専用ハガキなどを用意するとともに、問い合わせの結果や体験をウェブページ Evidence Hunting, Ask for Evidence case studiesで共有しています。さらにミスリーディングな製品情報を見つけたら規制当局に連絡するようになどと行動を促しています。
また、主張の科学的根拠を問う際に、ピアレビュー(査読)を受けた研究結果に基づいているかどうかが重要であることは言うまでもありませんが、このピアレビューという概念自体が、研究者以外には身近なものではありません。そのため同団体では、ピアレビューの意義を一般市民に説明するパンフレット I Don’t Know What to Believeを公開しています。そのほか、若手研究者のための査読ガイド Peer Review: The Nuts and Boltsなど、さまざまなパンフレットが無料公開されていますので、興味のある方は Publication のページをご覧下さい。「人工的に合成された化合物はすべて有害」などありがちな誤解を解くMaking Sense of Chemical StoriesやMaking Sense of GMなどの啓蒙パンフレットも、科学に関心のある人なら面白く読めそうです。
ほかに同団体のウェブサイトでは、「重金属を含む口紅には発がん性がある」などメディアで流れた根拠の不確かな科学ニュースに対して専門家がコメントするFor the Record や、有名人が発した怪しげなコメントに突っ込みを入れるScience for celebritiesといった、面白くためになるページが用意されています。市民と科学者の間を橋渡しすることによって社会全体の科学リテラシー・メディアリテラシーを高めていこうとするSense About Scienceの取り組みは、日本にとっても大いに参考になるのではないでしょうか。