今年は全国的に梅雨入りが早いようですが、これから蒸し暑さが増してくると、汗のにおいが気になりますね。ドラッグストアなどの店頭でも、制汗スプレーのディスプレイが目立つようになってきました。
そのように嫌われものの汗を、エネルギー源として発電に利用しようというユニークな研究成果を、カリフォルニア大学サンディエゴ校のJoseph Wang教授らの研究グループがAngewandte Chemie International Editionで報告しました。
⇒ Jia, W., Valdés-Ramírez, G., Bandodkar, A. J., Windmiller, J. R. and Wang, J. (2013), Epidermal Biofuel Cells: Energy Harvesting from Human Perspiration . Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201302922 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
酵素などの生体触媒の働きを使って化学エネルギーを電気エネルギーに変換する「バイオ燃料電池」の研究が、近年活発になっています。一般的な発電装置・バッテリーとしての利用だけでなく、糖などの体内成分から発電することによって、ペースメーカーなどの医療機器を充電や電池交換なしで連続使用できるようにするという用途も注目されています。特に研究が進んでいるのは、血液中に含まれるグルコース(ブドウ糖)をエネルギー源とする試みで、Chem-Stationさんの記事「生きたカタツムリで発電」で解説されているカタツムリのほか、ラットなどの小動物で成功例が報告されています。
今回Wang教授らは、汗に含まれてアンモニア臭の原因となる乳酸に注目し、乳酸酸化酵素とPt触媒を使って電力を生み出す方法を採りました。電極には、テトラチアフルバレン(TTF)やカーボンナノチューブ(CNT)などから合成した薄膜を使い、これを酵素・Pt触媒とともにフェイク・タトゥーのように加工して皮膚上に転写しました。この貼り付け型のバイオ燃料電池は、長時間身に付けても皮膚に害がなく、繰り返し使用しても性能の低下が小さい(4週間使用後も50%以上の性能を維持)ことが分かりました。15人の被験者による実験では、5~70 μW/cm2の電力密度で発電が確認されました。発電量に個人差が大きいのは、汗に含まれる乳酸の量が人によって異なるためで、日頃から多く運動している人は汗中の乳酸量が少ない傾向が見られるそうです。
Wang教授らの方法は、血中成分ではなく皮膚上に出てくる汗を利用するため、針を刺すなどの痛みを伴わないのが利点です。心拍や血圧の測定器など、ウェアラブル(装着可能)な医療機器への電力供給のための新しいアプローチとして、今後の改良が期待されます。