インパクト・ファクターの濫用にストップを|細胞生物学分野の主要ジャーナルが採択した宣言DORAに、Traffic誌が支持を表明

Traffic日本でもおなじみと言っていいかもしれませんが、元々はジャーナルの影響力を計る指標として考案されたインパクト・ファクター(IF)が、本来の目的から外れて個々の論文の価値や研究者の業績の評価指標に濫用される傾向が世界的に見られ、それを懸念する声が各方面から聞かれるようになっています。

2012年12月にサンフランシスコで開催されたThe American Society for Cell Biology (ASCB)の大会では、Science, Molecular Biology of the Cell, EMBO Journal, the Journal of Cell Biologyなどの有力誌を含む細胞生物学分野のジャーナルの編集長らが集まり、協議の結果 The San Francisco Declaration on Research Assessment (DORA)という宣言を採択しました。

この協議に参加した細胞内輸送の専門誌Trafficの編集委員らが、このほど発表された同誌のEditorialで、DORAの基本的なポイントを解説するとともに同誌の見解を表明しています。

 ⇒ Marks, M. S., Marsh, M., Schroer, T. A. and Stevens, T. H. (2013), Misuse of Journal Impact Factors in Scientific Assessment. Traffic, 14: 611–612. doi: 10.1111/tra.12075 icon_free (無料公開)

DORAの根幹をなすテーマは、次の3つです。

  • 研究助成の採否や研究者の採用・昇進の判断材料に、IFのようなジャーナルの評価指標が濫用されるのを止める必要がある
  • 研究成果の価値は、論文がどのジャーナルに掲載されたかではなく研究内容そのもので評価されるべき
  • 学術出版のオンライン化によって実現された機会を活用すべき(*注)

DORAはこれらに基づいて、研究助成機関・研究機関・出版社などの各関連機関に求められる具体的な行動を提言しており、Trafic誌はそれらの提言すべてを支持するとしています。

*注: 「出版のオンライン化による機会」というのは少し分かりにくいかもしれません。原著論文よりも総説のほうが引用されやすいため、原著論文を中心とするジャーナルはIFなどの指標で不利な評価を受ける傾向にあることがかねてから指摘されています。総説が引用されやすいのにはいくつか理由がありますが、ジャーナルの投稿規定で引用文献数に上限が設けられているのも一因と言われています。そのような上限が設けられたのは、かつての紙の雑誌では頁数の制約があったためですが、電子ジャーナル化によってもはや問題にならなくなったため、DORAでは出版社に対して制限を緩和・撤廃するよう求めています。Traffic誌では、引用文献数の制限を一切設けていないだけでなく、著者と査読者に対して、総説ではなく原著論文を積極的に引用するよう推奨しているとのことです。

DORAのサイトでは、提言を支持する研究者らのオンライン署名を集めていて、Traffic誌は読者に協力を呼びかけています。

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