昨日(7月3日)Angewandte Chemie International Edition (ACIE)で、「マイクロウェーブの非熱的効果」をめぐって見解が対立する2組の研究者らによって、先の批判に対する反論とそれに対する再反論の論文が同時にオンライン公開されました。注目のテーマに関する「公開論争」として注目されます。
マイクロウェーブ合成装置が有機合成で活躍していますが、その作用は単に加熱効果として説明できるのか、あるいは加熱効果では説明がつかない非熱的効果(nonthermal effects)ないしは特殊効果(specific effects)が存在するのかという問題は、以前から議論の的になっています。(気ままに有機化学さんの記事「マイクロウェーブの非熱的効果は本当にあるのか?」が参考になります)
今回の論争の発端となったのは、上の記事にも登場するグラーツ大学のKappe教授らが昨年12月にACIEで発表したエッセイ “Microwave Effects in Organic Synthesis: Myth or Reality?” です。この中でKappe教授は、非熱的効果の存在を肯定するこれまでの報告を取り上げて批判的に検討するとともに、自らも検証実験を行った結果、「非熱的効果は存在しない」と明言しました。
昨日公開された2報の論文は、Kappe教授らのエッセイで自分たちの報告が批判されたフロリダ州立大学のDudley教授らのグループによる反論 “Correspondence on Microwave Effects in Organic Synthesis” と、それに対するKappe教授の再反論 “Reply to the Correspondence on Microwave Effects in Organic Synthesis” です。「非熱的効果」などの用語の定義、Dudley教授らの実験で観察された現象の解釈などが争点になっており、このテーマに関心のある読者なら見逃せないところではないでしょうか。