<論文紹介> 磁石によって粘着力をオン・オフできる新しい「ヤモリ模倣粘着材」

垂直な壁をいとも簡単に登るヤモリは、足の裏に生えた繊毛の働きによって接着力を生み出していることが知られています。この能力を人工的に模倣しようとする試みは以前から盛んに行われ、「ヤモリテープ」として製品化されるなど、最近流行の生物模倣技術(バイオミメティクス)の好例としてよく取り上げられます。

この「ヤモリ模倣粘着」に別の技術を組み合わせることで、磁石を近づけるだけで粘着力を失い、貼りついていた粒子が手などで触れなくても自然にパラパラと落ちていくという新しい種類の粘着材が開発され、Advanced Functional Materials誌で報告されました。

 ⇒ Gillies, A. G., Kwak, J. and Fearing, R. S. (2013), Controllable Particle Adhesion with a Magnetically Actuated Synthetic Gecko Adhesive. Adv. Funct. Mater., 23: 3256–3261. doi: 10.1002/adfm.201203122 (本文を読むにはアクセス権が必要です)

この研究を行ったカリフォルニア大学バークレー校のグループは、外から磁場を与えられると変形する性質を持つ高分子材料「磁性エラストマー」(magnetoelastomer)に注目し、これを使って材料の表面上に微小な尾根状の突起であるマイクロリッジ(microridge)を縞状に形成しました。このマイクロリッジは、ふだんは直立し、ヤモリの足裏の繊毛と同じ働きで粘着力を生み出します。しかし磁石を近づけると、マイクロリッジは表面に沿って横たわり、表面が滑らかになってしまうため粘着力は1/10以下に急低下します。

実験では、直径0.5~1 mmの球状のガラス粒子が散らばった表面に、上からこの粘着材を押し当ててから持ち上げると、ガラス粒子は粘着材に貼りつきました。その状態のまま裏から磁石を近づけると、粘着力が失われてガラス粒子は下にポロポロ落ちていきました。この様子はSupporting Informationの動画で見ることができます。

このユニークな粘着材、同グループでは、電子部品の製造現場で空気噴射などに代えて塵芥の除去に用いるような応用を想定しているようです。

カテゴリー: 論文 パーマリンク