カナダ・トロント大学図書館で電子情報リソース・コーディネーターを務めてきたウォレン・ホルダー(Warren Holder)氏は、図書館での電子リソースの導入・管理に関して各国で講演活動を積極的に行うなど、高い見識と影響力のある図書館員として知られています。ホルダー氏は、電子ジャーナルの誕生期にあたる1990年代後半から電子資料の管理を担当するようになり、オンタリオ州の図書館コンソーシアム形成で主導的な役割を果たすなど、電子ジャーナルの普及過程に第一線で関わってきた人物です。このほど同図書館での35年間にわたる勤務を終え退職することになった同氏に、WileyのExchangesブログ編集部がインタビューを行っています。
⇒ On e-books, user engagement, and everything – an interview with Warren Holder
近年各国の図書館で導入が進む電子ブックについてホルダー氏は、紙の書籍から電子書籍への移行が当初考えていたほどスムーズに進まず、電子ジャーナルの登場時と同じ議論を改めて繰り返さなくてはいけなくなったのが予想外だったと語っています。ホルダー氏によると、電子ジャーナルが登場したとき、一部の図書館員は「利用者は電子ジャーナルを求めていない」「これまで通り図書館に読みに来ればよい」と消極的な態度をとったそうです。電子ブックの導入にあたっても「電子ブックは利用者に求められていない」「自然科学ではニーズがあっても、人文社会科学では違う」といった抵抗に遭ったのが、ホルダー氏には意外だったそうです。
電子ブックの新しい購入モデルとして、Demand Driven Acquisition (DDA / Patron-Driven Acquisitions = PDA とも呼ばれる) が最近注目されています。これは、電子ブックとして購入するタイトルを最初に決めるのではなく、利用者が広範囲の電子ブックに一定期間無料でアクセスできる環境を用意して、その間の利用者からのアクセス状況など需要を実際に見てから購入タイトルを決定するというモデルです。このDDAについてホルダー氏は、良さそうではあるが、図書館員がDDAに頼って、利用者が何を求めているかを知ろうとする努力を放棄してはいけないと戒めています。
ホルダー氏の同じような考えは、これからの図書館員に対して贈るアドバイスにも見られ、「現状に甘んじることなく、外に出て利用者に接し、世界で何が起こっているかを知ることが重要」と説いています。出版物の電子化が進むにつれて、論文や電子ブックのダウンロード数・被引用数、さらに最近ではネット上での反響を数値化するAltmetricsのような動きも見られ、文献の利用価値を評価する指標として多様なデータが容易に入手できるようになっています。そのような潮流を誰よりも知るホルダー氏が、データに依存せず、リアルな利用者の生の声を聞いてニーズを探ることの重要性を強調しているのが印象的です。
★ このインタビューを掲載しているWileyのExchangesブログは、研究者・学会・図書館員といった立場で知識生産に関わる方々の間で知識・情報交換を図ることをめざし、科学研究や出版に関する社内外からの寄稿・インタビューを随時掲載しています。当ブログでも、これまでにExchangesブログを基にして次のような記事を掲載し、それぞれ大きな反響をいただきました。
- インパクトファクターの濫用に反対する宣言DORAに対しAngewandte Chemie編集長は部分的に不賛同を表明、その理由は? (原記事: DORA and the Impact Factor debate)
- その新聞記事、科学的根拠はあるの? 市民の科学的理解を支援する英国の団体Sense About Scienceのユニークな活動 (原記事: Interview with Tracey Brown, Managing Director, Sense About Science)
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