日本で7月に最もよく売れたWiley(Wiley-Blackwell, Wiley-VCHを含む)の理工書トップ5をご紹介します。当月は化学書が多めのランキングとなりましたが、初登場第1位となったのは、この夏の有機化学書の中でも特に注目の一冊です。タイトルまたは表紙画像をクリックすると、目次やサンプル章など、詳しい内容をご覧いただけます。
1位 Design and Strategy in Organic Synthesis - From the Chiron Approach to Catalysis
Stephen Hanessian, Simon Giroux, Bradley L. Merner
ISBN: 978-3-527-31964-0
Paperback / 822 pages / July 2013
モントリオール大学のStephen Hanessian教授を中心として書かれた本書は、有機合成、特に天然物合成のための手法を多くの具体例とともに幅広く論じます(→ 目次)。本書が有機合成の一般的な概説書と一線を画している特徴は、副題にもあるように、同教授が提唱している「キロン(chiron)」の概念に基づくアプローチを前面に押し出している点です。キロンはchiral syntonを縮めた語で、有機合成を行う際にブロックとして用いられる光学活性をもつ化合物(アミノ酸・糖類・ヒドロキシ酸・テルペン)を意味します。昨年2012年にIUPAC-Richter Prize in Medicinal ChemistryとErnest Guenther Award in the Chemistry of Natural Productsをともに受賞したHanessian教授の理論の精髄を伝える本書は、約800頁に及ぶ大著ながら、ペーパーバックとしてお求めやすい価格で入手いただけます。
2位 High-Dimensional Covariance Estimation: With High-Dimensional Data
Mohsen Pourahmadi
ISBN: 978-1-118-03429-3
Hardcover / 208 pages / June 2013
多変量データの分析に広く使われる共分散行列の推定法に関して、古典的・現代的アプローチとその応用法を分かりやすく教えます。統計学・数学を用いる各分野の研究者に、また大学院生の教科書として適しています。
3位 More Dead Ends and Detours
Miguel A. Sierra, Maria de la Torre, Fernando P. Cossio
ISBN: 978-3-527-32976-2
Paperback / 288 pages / May 2013
ロングセラーDead Ends and Detoursの続編です。「Classics in Total Synthesis」のような全合成の傑作集がもっぱら見事な「成功例」を集めているのに対し、「失敗から学ぶ」をテーマにした前著Dead Ends and Detoursは、合成過程で行き詰ったり予定変更を余儀なくされた失敗例をケーススタディに用いて、難所を回避・克服するための具体的なアイディアを助言するというユニークかつ教育的な好著でした。今回の続編”More” Dead Ends and Detoursは、前著のコンセプトを踏襲しつつ、広く利用されている合成反応をもれなくカバーする形で、20あまりの新たな失敗例を取り上げます。ChemASAPさんの書評はこちら。
4位 Stereoselective Organocatalysis: Bond Formation Methodologies and Activation Modes
Ramon Rios Torres
ISBN: 978-1-118-20353-8
Hardcover / 674 pages / June 2013
本書は、金属元素を含まず、環境への負荷の低さや安定性・安価さから近年注目を集めている有機分子触媒(有機触媒)を用いた立体選択的合成反応に焦点を合わせています。最初の概論に続く各章で、重要な触媒反応を取り上げて詳述します。炭素-炭素結合、炭素-窒素結合、炭素-ハロゲン結合のように、触媒反応によって形成される結合の種類によって章立てを分けているのが本書の特徴で、読者が求める反応が簡単に見つかるよう配慮された構成となっています。最終章では、有機分子触媒による天然物合成について集中的に論じられます。
5位 Quantum Monte-Carlo Programming: For Atoms, Molecules, Clusters, and Solids
Wolfgang Schattke, Ricardo Díez Muiño
ISBN: 978-3-527-40851-1
Paperback / 296 pages / July 2013
「量子モンテカルロ法」は、材料設計のための物性のシミュレートなどに使われる数値解析法で、現在注目を集めています。本書は、この量子モンテカルロ法を基礎から応用までバランスよく理解できるようにするための教科書です。収録された例題や、無料ダウンロードできるプログラムが読者の理解を助けます。
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