研究者の論文数と被引用数から算出されるh-index(h指数)は、研究者の科学的影響力・インパクトを測る指標として近年用いられるようになり、日本でも浸透しつつあります。(ケムステさんの参考記事: Impact Factorかh-indexか、それとも・・・)
このh-indexを、一見全くの畑違いに思えるYouTubeチャンネルに適用して、各チャンネルの影響力の測定を試みるというユニークな研究の結果が、米コーネル大学の大学院生によってアメリカ情報科学技術協会誌Journal of the American Society for Information Science and Technologyで報告されました。
⇒ Hovden, R. (2013), Bibliometrics for Internet media: Applying the h-index to YouTube. J. Am. Soc. Inf. Sci.. doi: 10.1002/asi.22936
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h-indexの算出方法はWikipediaを参照していただくとして、そのポイントは、論文数と被引用数の両方がバランスよく高い水準にある研究者で高い値が出やすいということにあります。特定の1報の論文だけが突出して多く引用されても、また被引用の少ない論文を次々と出して数を積み重ねても、その研究者のh-indexは高くなりません。
一方、YouTubeチャンネルは、動画を投稿する個人や企業がYouTube上に開設できるもので、そのチャンネルをお気に入りとして「購読」した視聴者は、新しく投稿された動画を即時に知ることができるようになります。人気アーティストやタレント、また報道機関などのチャンネルは多くの購読者を獲得しています。
この論文では、各チャンネルの投稿動画の数を論文数に、動画の再生回数を被引用数にそれぞれ見立ててh-indexを算出し、上位25チャンネルのランキングを発表しています。(動画の再生回数は論文の被引用数と比べて桁違いに大きい数字になりがちなため、再生10万回=論文の被引用1回として換算しています) はたして上位にはどのようなチャンネルがランクインし、それは再生回数など他の指標によるランキングとどのように異なっていたでしょうか?
まず、比較の対象となる合計再生回数トップ3は次のチャンネルです。(カッコ内は回数・単位100万。2013年1月3日時点のデータに基づく)
- Justin Bieber (3,280)
- Rihanna (3,175)
- Atlantic Videos (2,210)
1位のジャスティン・ビーバー、2位のリアーナはともに人気ミュージシャンで、3位はアトランティック・レコード社の音楽ビデオ(PV)公開用チャンネルなので、いずれも音楽系ということになります。特にジャスティン・ビーバーは、プロデビュー前からYouTubeを活用して注目を集め、現在はTwitterでも4千万人以上のフォロワーを持つという、ネット時代を象徴するようなスターなので、1位になったのは意外ではありません。
続いてh-indexのトップ3。(カッコ内はh-indexの値)
- smosh (79)
- RayWilliamJohnson (77)
- nigahiga (70)
がらっと顔ぶれが変わりました。先の音楽系と違って日本人にはなじみが薄いと思いますが、人物についてはそれぞれのリンク先のWikipedia記事をご覧下さい。いずれもコメディー系の動画作家で、YouTubeへの投稿動画が支持を集めてブレイクした人たちです。
h-indexの上位3組はそれぞれ、合計再生回数のランキングでは4位、6位、25位でした。一方、合計再生回数の上位3組のうち、h-indexのランキングで25位までに入ったのはAtlantic Videos(9位)のみで、Justin Bieber, Rihannaともランク外でした。2つのランキングが全く違ったものとなっていることが分かります。
著者の分析によると、このように顔ぶれが大きく異なるのは、ミュージシャンの場合は限られた少数の人気動画がネット上の口コミでものすごい再生回数を稼ぐのに対し、コメディー系の場合は、頻繁に動画を投稿する作者に常連ファンがついて、毎回コンスタントに視聴されるというユーザー行動の違いが原因のようです。ちなみにh-index上位の3組は、チャンネルの購読者数ランキングではそれぞれ3位、1位、2位でしたので、h-indexと購読者数のランキングはかなり似通っているといえます。(チャンネル購読者数1位はRay William Johnsonで614万人)
なお、YouTubeで各チャンネルは「音楽」「コメディー」「スポーツ」「ニュースと政治」などのカテゴリーに分けられています。カテゴリーごとの人気チャンネルのh-indexを見ると、「コメディー(Comedians)」のh-indexが高く、硬派な「ニュースと政治(Reporters)」では低くなっています。分野の違いを無視して一律に数字だけを比較するのは妥当でないという点は、研究者のh-indexや雑誌のインパクトファクターを見る場合とも共通するようです。