最近の調査結果は、論文査読(peer-review)の重要性が研究者の間で広く認められていることを示していますが、その一方で、研究者コミュニティ全体が査読プロセスに費やしている時間・労力の多大なロスを問題視する声も高まっています。そうした中で、米国のベンチャー企業Rubriqは、出版社から独立して有償で査読を専門に請け負うビジネスを立ち上げ、学術出版界で注目を集めています。同社の共同創業者の一人であるKeith Collier氏が、Wileyの科学研究・出版ブログExchangesでインタビューに答え、同社のめざす方向性を語っています。
⇒ A new approach to peer review – an interview with Keith Collier, co-founder of Rubriq (September 17, 2013, Exchanges blog)
研究者が、あるジャーナルにリジェクトされた論文を別のジャーナルに再投稿するのはよくあることですが、その際に査読プロセスが最初からやり直されるため、再投稿のたびに査読が二重・三重に行われることになります。それは研究者コミュニティ全体にとって無駄な負担になるだけでなく、著者自身の側にも出版の遅れとして跳ね返ってきます。Collier氏によると、こういった査読の重複による時間のロスを試算すると、合計で年間1,500万時間以上にもなるそうです。
こうした無駄を排除するため、Rubriq社は出版社から独立した査読専門機関として、どの出版社に対しても通用する標準化された査読レポート(スコアカード)の作成を、論文の著者から有料で請け負います。査読はダブル・ブラインド方式で厳格に行われ、1~2週間で査読者から結果が戻ってきます。著者が支払った査読料の一部が、査読者に謝礼として支払われるのも、Rubriqによる査読方式の大きな特徴です。論文盗用の有無のチェックも、ソフトウェアによって行われます。
Rubriq社のスコアカードに付けられた評価で、特定のジャーナルへの採否が直接決まるわけではありません。著者がジャーナルへの論文投稿時にスコアカードを添付すると、エディターはスコアカード上の評価を見て、ジャーナル独自の査読に回すかどうかのふるい分け(スクリーニング)の判断材料にします。スクリーニングを通過した論文については、結果的にRubriq社とジャーナルとで二重に査読を行うことになりますが、エディターの段階でそのジャーナルに適さない論文を大部分ふるい落とせるため、査読に回してからリジェクトになるケースを大幅に減らせるというところに狙いがあります。
同社では、6つの出版社との提携によるベータテストを最近終えたところで、査読者および雑誌エディターからは非常に好評を得たそうです。その一方でCollier氏は、この査読方式が普及する上での課題として、エディターの理解を得る必要があることと、「査読はタダ」という研究者の認識が変わる必要があることを挙げています。
同社では、この査読方式の普及を図ることと併せて、著者が自分の論文に最適な投稿先を見つけるためのジャーナルデータベースの構築と、独自のシステムを持たない新興ジャーナルのための投稿・査読管理用フリーソフトの提供を計画しているそうです。また、最近注目を集めている、論文のオンライン公開後に読者からの評価を募る”post-publication peer review”についてCollier氏は、従来型の公開前査読を補完する役割を果たす可能性があるが、論文の撤回や出版不正の問題が後を絶たないことを考えると、従来型の査読がフィルターとして中心的な役割を担い続けることは今後も変わりないだろうとの見解を述べています。
■ 参考リンク: 有料査読で論文出版サイクルを円滑に - 米ベンチャー”Rubriq”の紹介 (2013年02月13日, 情報管理Web STI Updates)