光を当てることによって水を水素と酸素に分解する「水の光分解」は、有望なエネルギー源となる水素を水と太陽光からクリーンに製造する技術として、世界的に大いに注目され、盛んに研究されています。
効率的な水分解を実現するための決め手となるのは触媒(光触媒)で、さまざまな材料が試されていますが、中でも紫外光と可視光の両方を吸収できる窒化タンタル(Tantalum nitride) Ta3N5 はその有力候補のひとつとなっています。その際、触媒の性能を上げるため、窒化タンタルの表面に反応を促進するための助触媒を担持させるやり方が一般的です。還元触媒としての白金、酸化触媒としての酸化イリジウムまたは酸化コバルトなどが有望な助触媒として用いられてきましたが、塊状の窒化タンタルの表面にそれら両方の助触媒を担持させると、同じ表面上で酸化と還元が同時に起こるため逆反応を招き、効率の低下をもたらすことが課題となっていました。
東京大学大学院工学系研究科・堂免一成教授の研究室は、中空の触媒の内側と外側にそれぞれ還元触媒と酸化触媒を別々に担持させることで、逆反応を防ぎ触媒性能を向上させる方法を開発し、Angewandte Chemie International Edition (ACIE)で報告しました。
- 論文 ⇒ Wang, D., Hisatomi, T., Takata, T., Pan, C., Katayama, M., Kubota, J. and Domen, K. (2013), Core/Shell Photocatalyst with Spatially Separated Cocatalysts for Efficient Reduction and Oxidation of Water . Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201303693
(本文を読むにはアクセス権が必要です)
- 参考リンク: 化学ニュースサイトChemistry Viewsの解説記事 ⇒ Separate but Together (September 17, 2013, Chemistry Views)
堂免教授らの方法では、まず二酸化ケイ素の微粒子(ミクロスフェア)の表面を白金ナノ粒子で修飾します。次にその上を窒化タンタルで覆い、さらにその表面を酸化イリジウムまたは酸化コバルトで修飾することで、内部と外部の材料が異なる「コアシェル型」触媒が合成されます。窒化タンタルの膜には内部の物質が出入りできる細孔があり、また「コア」にあたる内部の二酸化ケイ素は選択的に溶解することができます。二酸化ケイ素の溶解後は、内側に白金ナノ粒子、外側に酸化イリジウムまたは酸化コバルトを担持した中空構造の窒化タンタル触媒が残ります。
この触媒を用いた水分解反応では、酸化・還元触媒が窒化タンタルの壁で隔てられているため逆反応が起こりにくく、従来の形状の光触媒と比べて、水素の発生量が大幅に増えることが実験で確認されました。この加工法は容易なので、今後の研究で触媒の形状や担持させる助触媒の組み合わせを変えることにより、さらなる性能向上が期待できます。