ジーンズの青色でおなじみで、日本でも古くから「藍」として用いられてきた植物由来の染料インディゴが、ここ数年、有機エレクトロニクスの材料として急速に注目を集めるようになっています。当分野のパイオニアのひとりであるオーストリア・リンツ大学のNiyazi Serdar Sariciftci教授らは、その背景と近年の展開をまとめた総説をAdvanced Materials誌で発表しました。
- 論文 ⇒ Głowacki, E. D., Voss, G. and Sariciftci, N. S. (2013), 25th Anniversary Article: Progress in Chemistry and Applications of Functional Indigos for Organic Electronics. Adv. Mater.. doi: 10.1002/adma.201302652
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この論文中の“2 A Short History of Indigos”によると、インディゴは染料として使われた考古学的証拠が少なくとも紀元前2千年まで遡れるほど長い歴史を持ち、その名前は古代文明の発祥地である「インダス川」に由来しているそうです。インディゴは長年、大変な貴重品とされ、それが生み出す青・藍色はしばしば富と権力の象徴とされました。
このインディゴとその類縁体の染料は、19世紀に入ると工業的合成法が盛んに研究されるようになり、近代有機化学の発展に重要な役割を果たします。アドルフ・フォン・バイヤー、エミール・フィッシャーといった名だたる有機化学者がインディゴの研究に取り組み、中でも1880年に初の合成に成功したフォン・バイヤーは、それを含む業績により1905年にノーベル化学賞を受賞します。また、フォン・バイヤーの合成法を基に技術改良を重ねたBASF社は、1897年に合成インディゴの工業的製造に成功したことで、現在のような世界的化学メーカーに成長するための契機を得ました。
インディゴとその異性体であるイソインディゴ、エピンドリジオンといった染料が、有機エレクトロニクス材料として改めて脚光を浴びたのは、フォン・バイヤーらの成果から一世紀以上を経た2010年前後のことです。それ以来、これらの化合物は有機電界効果トランジスタ(OFET)のための半導体ポリマーや有機系太陽電池のビルディングブロックとして有望視されるようになり、研究成果が急速に蓄積されています。また、生体適合性のある医用材料への応用も期待されています。実用化に向けては課題が残っていますが、今後さまざまな発展の可能性を秘めた興味深い研究テーマであることは間違いなさそうです。
★ この総説は、Advanced Materials誌が創刊25周年を迎えたのを記念して各分野の著名な研究者に委嘱した記念論文「25th Anniversary Article」のひとつです。