原始の地球上で無生物から最初の生物が生まれた「生命の起源」は、生命科学者のみならず多くの人の関心を集めるテーマですが、今なお多くの謎に包まれています。
ローマ第3大学のPier Luigi Luisi教授らのグループは、細胞の最小モデルを使った実験で、原始細胞の誕生に「自己組織化」プロセスが重要な役割を果たしたことを示唆する結果を得ました。この発見は、Angewandte Chemie International Edition (ACIE) で報告されました。
- 論文 ⇒ Stano, P., D’Aguanno, E., Bolz, J., Fahr, A. and Luisi, P. L. (2013), A Remarkable Self-Organization Process as the Origin of Primitive Functional Cells. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201306613
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原始の地球で、生体分子となるようなタンパク質・核酸などの有機物が何らかの形で生成したとしても、それらが海水などの水中に分散している状態では、分子間が離れすぎてそれ以上の反応が進みません。現在、多くの生命科学者は、細胞膜と同じ脂質が作るマイクロカプセル「リポソーム」の役割に注目しています。リポソーム内に高い濃度で有機物が閉じ込められると、分子間で反応が起こりやすくなり、特定の機能をもったタンパク質などが合成される条件が整うからです。
今回Luisi教授らのグループは、原始細胞の最小モデルとして、タンパク質の合成に必要な最小限の分子(RNA・酵素など)を揃えた無細胞タンパク質合成系(PURE)と、緑色蛍光タンパク質(GFP)を作るDNAを合わせた83種類の分子のセットを用意しました。これら83種類の分子のうちひとつでも欠けると、GFPが作れません。分子のセットが反応を起こさないよう緩衝液で薄めた上で、リポソームを作る脂質POPCを加えたところ、生成したリポソームのうち約0.5%でGFPによる蛍光が観察され、それらに83種類の分子がすべて包接されたことが分かりました。0.5%と聞くとかなり低い率に思えますが、同グループによる確率計算では、一つのリポソームに83種類の分子が偶然に漏れなく含まれる確率は限りなくゼロに近く、実験においてリポソームにすべての分子を取り込むような何らかの自己組織化作用が働いたことが示唆されました。
この自己組織化プロセスがどのようなメカニズムで起こるかは依然として謎のままですが、原始細胞の発生過程を単純なモデルで再現した今回の実験結果は、今後の研究の進展にとっての大きな手掛かりになるかもしれません、
- 参考リンク Chemists show life on Earth was not a fluke (24 October 2013, The Conversation)
- この論文は、ACIEで重要論文”Hot Paper”に選ばれました。ACIEでは、注目を集めている分野での研究で、編集委員が特に重要性を認めた論文をHot Paperとしています。
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