<論文紹介> 多種多様な複雑化合物を効率的に合成するComplexity-to-Diversityアプローチ|アビエチン酸から84種の化合物合成に成功 (ACIE VIP)

Angewandte Chemie International Edition米イリノイ大学のPaul J. Hergenrother教授らのグループは、既知の天然化合物から出発して多種多様な複雑化合物を効率よく作り出すComplexity-to-Diversity (CtD) と呼ばれる合成戦略をアビエチン酸に適用し、77種の新規化合物を含む84種の複雑化合物の合成に成功しました。薬物候補化合物の探索に使われる化合物ライブラリの充実につながることが期待されるこの成果は、Angewandte Chemie International Edition (ACIE) に掲載され、注目論文 VIP (Very Important Paper) に選ばれました。

現在の創薬研究において、多種多様な化合物のコレクション「化合物ライブラリー」から高速なハイスループット・スクリーニングによって薬物候補となるリード化合物を探索する手法は、きわめて大きな位置を占めるようになっています。優れた生物活性を示す化合物には複雑な構造のものが多いため、化合物ライブラリを充実させるには、そういった複雑な化合物を幅広く大量に収集することが重要です。

天然化合物は複雑な化合物の重要なソースですが、天然化合物を一つずつ新たに見つけ出して単離するのは難しく、膨大な時間を要してしまいます。そのため、多様な化合物を効率よく作り出すための合成戦略がいくつかの研究グループから提示されています。抗がん剤や抗生物質の開発を研究テーマとするHergenrother教授のグループもその一つで、彼らは既知の天然化合物の環構造を操作することにより、少ないステップで構造的に多様な化合物を数多く生み出す合成戦略を開発し、その手法を自らComplexity-to-Diversity (CtD) アプローチと呼んでいます。

今回の論文でHergenrother教授らは、松脂に含まれるアビエチン酸から出発して、CtDの手法によって多様な骨格を持つ84種の化合物を合成、うち77種が新規化合物と判明しました。ケモインフォマティクス的手法による解析の結果、それらの化合物はお互いに構造が大きく異なり、分子多様性に富むことが確認されました。入手しやすく性質がよく知られた天然化合物から、多様性に富んだ複雑化合物を効率よく合成できる彼らのアプローチが、将来の新薬発見につながることが期待されます。

■ ACIEでは、二人の査読者が特に重要性を認めた論文をVIP (Very Important Paper)に選んでいます。
 ⇒ 最近VIPに選ばれた論文

カテゴリー: 論文 パーマリンク