金ナノ粒子の触媒作用に関する研究で知られる首都大学東京の春田正毅教授によるエッセイが、Angewandte Chemie International Edition (ACIE) に掲載されました。
- このエッセイを読む ⇒ Haruta, M. (2013), Chance and Necessity: My Encounter with Gold Catalysts. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201305987
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春田教授は、不活性で触媒に不向きと考えられていた金が、ナノ粒子になると優れた触媒作用を発揮することを発見し、それまでの化学的常識を覆しました。現在までに金触媒の研究は大きく発展するとともに、化学プラントやディーゼル車の排ガス浄化などへの商業的応用も進められています。被引用が化学分野全体で世界のトップ0.05%に入るという春田教授は、昨年トムソン・ロイターが選出したノーベル賞有力候補者として「トムソン・ロイター引用栄誉賞」を授与されました。(→ トムソン・ロイターによる春田教授インタビュー)
今回のエッセイで春田教授は、金触媒研究の始まりとその後の展開を総括しています。約30年前、大阪工業技術試験所の若手研究者として高価な白金やパラジウムに代わる水素酸化触媒を探索していた春田氏は、金属の複合酸化物が、銀を含む特定の組み合せの場合に白金に近い触媒活性を示すことを発見しました。
この発見を1982年にベルギーでの学会で発表した春田氏は、米国の技術コンサルタントClyde S. Brooks氏から「金は試したか?」と質問を受けました。「いや、金は白金よりも高価だから」と答えた春田氏に、Brooks氏は「新しい科学的原理を発見することは、経済性より重要だろう」と返しました。この言葉をきっかけに、春田氏は帰国後に金の触媒作用についての実験を始めた結果、金が非常に高いCO酸化触媒活性を示すという大発見に至ったそうです。そういった科学的発見における「偶然」と「必然」に関わるエピソードを交えながら、金触媒研究の発展の過程を発見者が自ら解説するこのエッセイ、ご一読をおすすめします。