注目の科学論文についての情報交換にツイッターを利用するのは、分野を問わず日常的になりつつあります。各分野で新着論文をツイッターで頻繁に紹介してくれる専門家をフォローしている人は多いでしょう。また大半の人が自分でも、たまたま面白い論文を見つけたときに、周囲に紹介するためにツイートした経験が一度や二度はあるのではないでしょうか。
不特定多数のツイッター利用者によるそういった情報発信は、Altmetricなどの新しいツールの登場によって、数量的な分析が可能になってきました。そうした中、特に多くの人によってツイートされた論文とはどういうものか傾向を探るため、大規模なデータに基づいて分析した調査結果が、アメリカ情報科学技術協会誌Journal of the American Society for Information Science and Technologyで報告されました。
- 論文 ⇒ Haustein, S., Peters, I., Sugimoto, C. R., Thelwall, M. and Larivière, V. (2013), Tweeting biomedicine: An analysis of tweets and citations in the biomedical literature. J. Am. Soc. Inf. Sci.. doi: 10.1002/asi.23101
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モントリオール大学などの研究グループによるこの調査は、次のような範囲の論文・ツイートを対象に行われました。
- 論文: 医学・生物学文献データベースPubMedに収載された、2010~2012年に出版された約143万報
- ツイート: 論文またはPubMedエントリーへの直接リンク(URLやDOIなど)を文中に含む、2011年7月~2012年12月までの約34万ツイート(Altmetricのデータを抽出)
実際には、論文に直接リンクせず、新聞の科学記事などをソースにした「孫引き」にあたるようなツイートも多数あったはずですが、それらは今回の分析に含まれていないことが調査上の制約といえるかもしれません。
調査対象のうち、最も多くツイートされた論文のトップ5は以下のようになりました。(原論文には15位まで掲載されています)
順位 | 論文 | 掲載誌 | ツイート数 | Web of Science引用数 |
#1 | Hess et al. (2011). Gain of chromosome band 7q11 in papillary thyroid carcinomas of young patients is associated with exposure to low-dose irradiation | PNAS | 963 | 9 |
#2 | Yasunari et al. (2011). Cesium-137 deposition and contamination of Japanese soils due to the Fukushima nuclear accident | PNAS | 639 | 30 |
#3 | Sparrow et al. (2011). Google Effects on Memory: Cognitive Consequences of Having Information at Our Fingertips | Science | 558 | 11 |
#4 | Onuma et al. (2011). Rebirth of a Dead Belousov–Zhabotinsky Oscillator | Journal of Physical Chemistry A | 549 | - |
#5 | Silverberg (2012). Whey protein precipitating moderate to severe acne flares in 5 teenaged athletes | Cutis | 477 | - |
第4位が分野や掲載誌の面で異色に見えますが、これは一昨年大きな話題になった、茨城県立水戸第二高等学校の女子高生らによる論文です。言われてみると思い出した方も多いのでは。
そのほか上位論文の傾向として、健康情報に関するものやニュース性のある論文(例:第6位 Wen et al. (2011). Minimum amount of physical activity for reduced mortality and extended life expectancy: a prospective cohort study / Lancet) 、また性に関する話題やユーモラスな内容を含む論文(例:第7位 Kramer (2011). Penile Fracture Seems More Likely During Sex Under Stressful Situations / Journal of Sexual Medicine) が目立ちました。特に後者の場合、その分野の専門家ではなく一般ユーザーによる興味本位のツイートが多いと思われ、また上のランキングからも推測されるように、各論文のツイート数とWeb of Scienceでの被引用回数との相関は低い(相関係数 0.183)ことが分かりました。
従来は被引用回数が論文の影響力の評価指標に使われてきたのに対し、最近登場したAltmetricのような論文評価方法では、ツイッターなどソーシャルメディア上での言及回数を指標に含めるようになっています。しかし今回の結果をまとめた研究グループでは、ツイート数と引用が示す影響力はそれぞれ種類が異なるもので、ツイート数は引用の代替になるような指標ではなく、補完的な指標と考えるべきとの見方を示しています。
この論文では、ツイートの多いジャーナルや分野についても分析が行われていますが、詳細は原論文をご参照下さい。今回は上記のように一定の制約の下での分析結果なので、今後の研究によって別の発見が生まれるかもしれません。