東京大学大学院工学系研究科・藤田 誠教授の研究室は、工業的に広く使われる原料でありながら安定的な保存が難しく、しばしば事故の原因にもなってきたアクリル酸エステル(アクリレート)を、細孔性錯体中に包接することにより容易かつ安全に保存する方法をChemistry – An Asian Journalで報告、この論文は同誌の注目論文VIP (Very Important Paper) に選ばれました。
- 論文 ⇒ Ning, G.-H., Inokuma, Y. and Fujita, M. (2013), Stable Encapsulation of Acrylate Esters in Networked Molecular Capsules. Chem. Asian J.. doi: 10.1002/asia.201301298
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アクリル酸エステルは、生活に身近なアクリル樹脂や塗料・接着剤などの用途に幅広く用いられる非常に重要な原料です。しかしアクリル酸エステルは不安定ですぐに重合化してしまうので、その保存には安定剤(重合禁止剤)を添加したり、熱・光・湿気を避けるなど特別な注意を必要とします。しかも重合反応時に熱を発するため、化学プラントなどでたびたび重大な爆発事故や火災を起こす原因にもなっています。そのため、アクリル酸エステルの安全で安定的な保存方法の確立は重要な課題といえます。
細孔性錯体を用いた研究で数々の成果を発表している藤田教授らは、M6L4分子カプセルをネットワーク化した構造体にアクリル酸エステルをゲスト分子として包接することに成功しました。単結晶X線構造解析により、1つの分子カプセルにはアクリル酸エステルの分子が4個ずつ、重合化することなしに詰め込まれていることが分かりました。この状態でのアクリル酸エステルは非常に安定的で、UV照射下や100℃の高温下に置いても重合化は全く起こりませんでした。包接されたアクリル酸エステルの抽出は、トルエン洗浄によって容易に行えることも確認できました。
■ Chemistry – An Asian Journalでは、二人の査読者が特に重要性を認めた論文をVIP (Very Important Paper)に選んでいます。
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