太古の地球でどのようにして最初の生命が誕生したかというロマンあふれるテーマには、これまで多くの科学者が挑み、さまざまな学説を発表してきましたが、いまだに未解明の部分が多く残されています。このほどイタリア・トゥーシア大学のRaffaele Saladino教授らのグループは、初期の地球に落ちてきた隕石が触媒となって、生命の前駆物質となる有機物の合成を促したことを示唆する興味深い研究結果をChemistry - A European Journalで報告しました。
- 論文 ⇒ Saladino, R., Botta, G., Delfino, M. and Di Mauro, E. (2013), Meteorites as Catalysts for Prebiotic Chemistry. Chem. Eur. J., 19: 16916–16922. doi: 10.1002/chem.201303690 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
ホルムアミド(NH2COH)は、地球に接近した彗星の核から検出されるなど、宇宙に広く存在する物質であることが最近明らかになっています。同グループは、鉄などを成分とする12種類の隕石の試料を使って、触媒量の隕石の粉末をホルムアミドに混ぜてから、140℃または60℃で24時間放置した後、生成物を分析しました。その結果、カルボン酸・核酸塩基・アミノ酸など、これまでの学説で生命の前駆物質とされてきたさまざまな有機物が高い濃度で見つかりました。同グループでは、この結果を隕石を構成する物質の触媒作用によるものと考え、生命の起源となる前駆物質の合成に隕石が重要な役割を果たした可能性を示唆するものとしています。
生命起源の研究では、これまでも隕石の役割が再三取り上げられてきましたが、地球外の有機物が隕石に付着して運び込まれた、あるいは隕石の衝突熱が生命前駆物質の合成を促したといった学説が主でした。隕石の触媒作用という視点が生命起源の解明を進めることになるか、注目されます。