かつてのSF映画「ミクロの決死圏」ではありませんが、体内を自在に移動して患部にピンポイントで治療を行えるような微小サイズの「マイクロマシン」「ナノマシン」の実現をめざしての研究が活発に進められています。(関連書: Nanomachines by Joseph Wang, 2013) その際に大きな技術的課題となるのが、そのように微小なマシンにどうやって推進力を持たせるかという点で、前掲書に書かれているようにさまざまなアプローチが試みられています。
このほどドイツのライプニッツ固体・材料研究所(IFW Dresden)のOliver G. Schmidt博士らのグループは、牛の精子の鞭毛運動によって前に進むマイクロサイズの単純なデバイスを開発し、「マイクロ・バイオロボット」としてAdvanced Materials誌で詳細を報告しました。(右図が掲載号の内表紙画像)
- 論文 ⇒ Magdanz, V., Sanchez, S. and Schmidt, O. G. (2013), Development of a Sperm-Flagella Driven Micro-Bio-Robot. Adv. Mater., 25: 6581–6588. doi: 10.1002/adma.201302544 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
右上の画像がイメージを伝えるように、このマイクロロボットは、強磁性体の薄膜を丸めた長さ50μmの細いマイクロチューブの空洞部分に、精子細胞が「頭」を突っ込んだ構造になっています。磁力によってマイクロチューブの方向を操作することができ、精子の鞭毛運動を推進力として前進します。実験では、液体中を10 μm/s前後の速さで進み、1時間以上にわたって動き続けることが可能と確認されました。同グループでは、人工授精やドラッグデリバリーへの応用が期待できるとしています。
☆ 上記論文のSupporting Informationで動画を見ることができ、特にS8.aviはコンセプトを分かりやすく紹介しています。