金などのナノ粒子の表面上で、光との相互作用によって自由電子の集団的振動(表面プラズモン共鳴)が起こる「プラズモニック・ナノ粒子」は、高い発色性を示すことから、ステンドグラスやガラス食器といった伝統工芸品の発色に利用されてきました。この特性を、微量物質の存在を色の変化によって肉眼で識別する「比色分析」に応用しようという試みがナノ科学・技術の専門誌Smallで報告されましたが、その内容がなかなかユニークなものとなっています。
- 論文 ⇒ Du, J., Zhu, B. and Chen, X. (2013), Urine for Plasmonic Nanoparticle-Based Colorimetric Detection of Mercury Ion. Small, 9: 4104–4111. doi: 10.1002/smll.201300593
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シンガポール・Nanyang工科大学のXiaodong Chen准教授らを著者とするこの論文によると、金ナノ粒子を水中に分散させた溶液は鮮やかな赤色を示し、これにヒトの尿を0.025%加えても、色はほとんど変わりません。ところが、さらに微量の水銀イオンを加えると、色は赤から青へとはっきり変化しました。水銀以外の金属イオンではこのような色の変化は生じないため、この方法で水銀イオンの選択的な検出が可能と分かりました。
著者らは、この現象は、尿に含まれる尿酸とクレアチニンが金ナノ粒子の表面上で水銀イオンと結合し、その結果金ナノ粒子の集合化が起こることによると明らかにしました。尿に含まれる尿酸とクレアチニンの濃度は人によってかなり異なりますが、それぞれの濃度を変えて行った実験の結果、健康な人の尿であれば水銀イオンの検出に支障はないそうです。著者らはこの方法を、工場排水を採取して検査する場合などに、高価な試薬を使うことなく、安価かつ簡単で、しかも(自分の尿を使うので)携帯性にすぐれた検査法であるとしています。
この論文についてもう一つ注目したいのが、掲載号 (Volume 9, Issue 24) に採用された右上の表紙画像です。読者の目を引き付け、内容が分かるとニヤリとさせる、インパクトのある表紙画像の好例ではないでしょうか。