ジャーナルに掲載された学術論文は、一般的には出版直後に最も多く読まれ、年月の経過とともに読まれる頻度が下がっていきます。論文が出版直後に集中的に読まれる分野と、比較的長期にわたって読み続けられる分野との違いがあることは想像がつきますが、それをデータで実証した研究はこれまでありませんでした。
このほど、電子ジャーナルの利用データに基づいて、各誌に掲載された論文がどのくらいの期間にわたって読まれたかを示す”usage half-life”(利用半減期*)を調べ、分野ごとの傾向を分析した初めての大規模調査の結果をまとめたレポートが発表されました。利用半減期が短いほど、論文の利用が出版直後の短期間に集中したことを意味します。
* 利用半減期 = あるジャーナルに掲載された各論文のダウンロード回数の累積が、これまでの総ダウンロード回数の50パーセントに至るまでの期間をそれぞれ算出し、その中間値を採ったもの
- このレポートを読む Davis, Philip M. (2013), Journal Usage Half Life (PDF)
この調査は、元図書館員で現在は出版コンサルタントのPhil Davis氏が、各出版社からデータの提供を受けて行ったものです。Wiley, Elsevier, Springerをはじめ、大学出版局・学協会を含む代表的な学術出版社13社の計2,812誌が対象となりました。
今回発表された主な結果は以下の通りです。
- 論文の利用の推移はジャーナルによって、また分野によってかなり異なる
- 利用半減期が「12ヶ月未満」のジャーナルは全体の3%に留まる一方、「6年以上」のジャーナルが17%近くあった
- 分野ごとの利用半減期(分野内の各ジャーナルの利用半減期の中間値)
2~3年: 医学・保健科学
3~4年: 生命科学、化学、計算機科学、エネルギー・地球科学、工学、社会科学
4~5年: 人文科学、物理学、数学
詳細については、上記レポートの原文をご覧下さい。
近年米国などで、公的助成を受けた研究から生まれた論文を、ジャーナルへの掲載から一定の公開猶予期間(embargo period)の後にオープンアクセス化することを義務付ける動きがあります。その際、有料購読の減少につながるリスクと国民のパブリックアクセスの確保というメリットとの間でバランスを保つには、どのくらいの公開猶予期間が妥当かという点を巡って多くの議論がありましたが、議論の根拠となるような客観的なデータは得られていませんでした。今回初めて得られた調査結果は、オープンアクセスの公開猶予期間に関する今後の議論に一石を投じるものとなる可能性があります。
参考リンク
- 米国出版社協会による発表資料: New Report Released Tracking Usage Patter of Academic Journal Articles (December 18, 2013, The Association of American Publishers)
- レポートの著者Phil Davis氏のブログ記事: What is the Lifespan of a Research Article? (December 18, 2013, The Scholarly Kitchen)