先月このブログで、科学論文についてのツイート数とその論文の被引用回数との相関は低いという報告をご紹介しました。それに関連して、今度は科学ブログで取り上げられた論文の引用状況についての調査が行われ、その結果、同じジャーナルの掲載論文で比較した場合、科学ブログで取り上げられた論文は、それ以外の論文よりも被引用回数が多くなる傾向が認められました。
Twitterと科学ブログとの性質の違いを示唆するこの興味深い結果は、アメリカ情報科学技術協会誌Journal of the Association for Information Science and Technologyで報告されました。
- 論文 ⇒ Shema, H., Bar-Ilan, J. and Thelwall, M. (2014), Do blog citations correlate with a higher number of future citations? Research blogs as a potential source for alternative metrics. Journal of the Association for Information Science and Technology. doi: 10.1002/asi.23037 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
世界中のすべての科学ブログを対象に、どの論文が言及されたかを網羅的に調べることは現実的に不可能です。今回の調査は、ResearchBlogging.orgに掲載されたブログ記事を対象に行われました。ResearchBlogging.orgは一種の「科学ブログまとめサイト」で、予めユーザー登録したブロガーが、論文の引用を含む記事を自分のブログに投稿するごとに、その記事の抜粋を自動的に取り込んで掲載する仕組みになっています。2011年末の時点で1,230以上のブログが登録され、掲載された記事は約27,000件でした。
今回の調査では、出版直後の新しい論文を取り上げたブログ記事が対象とされ、2009・2010年それぞれに出版された論文をその年内に取り上げたブログ記事(2009年:4,013件、2010年:6,016件)が抽出されました。同じジャーナル内での比較のため、それらのブログ記事に載った論文が各年で20報以上あるジャーナルに絞ったところ、2009年は12誌、2010年は19誌が該当しました。そのうち総合誌はPLos One, PNAS, Nature, Scienceの4誌で、その他は生物・医学系のジャーナルが多くを占めました。
同じジャーナル内で、ブログで取り上げられた論文とそれ以外の論文が出版後3年間に得た被引用回数を比較したところ、ブログに載った論文の被引用回数が多くなる傾向が一貫して見られました。例えば、2009年に総合誌4誌で出版された論文の、3年間の被引用回数の中間値(median)は以下のようになりました。
掲載誌 | ブログに載った論文 | ブログに載らなかった論文 |
PLos One | 8 | 6 |
PNAS | 20 | 16 |
Nature | 41 | 40 |
Science | 57 | 49 |
被引用回数の差は、2009年は12誌中7誌(58%)、2010年は19誌中13誌(68%)で統計的に有意と確認されました。
このように被引用回数の違いが生じた理由は、ブロガーが注目度の高い論文を選んだため、あるいはブログに取り上げられたことで論文の注目度が高まったためなど複数考えられ、今回の結果からは特定できません。いずれにしても、論文が科学ブログで取り上げられることは、その論文の将来の被引用回数を予測するための一定の指標となる可能性があると、今回の結果を報告した著者らは考えています。
先の調査でツイート数と被引用回数との相関が低かったのとは異なる結果となりましたが、きわめて気軽に発信できるTwitterと比べて、時間と労力を費やして書くブログでは、書き手が内容をよく吟味して論文を選ぶ傾向があることが背景にあるようです。