有機合成の強力なツールとして広く用いられるディールス・アルダー反応(Diels-Alder reaction)では、共役ジエンに親ジエンを付加することにより6員環構造が得られます。現在、ディールス・アルダー反応では多様な親ジエンが利用されていますが、中でもキノン類は、DielsとAlderによる同反応の発見(1928年)に始まり、その後も長年にわたって多くの重要な合成反応で使われてきたという点で、歴史的に特別な位置を占めています。
このほど英ノッティンガム大学のChristopher J. Moody教授らがAngewandte Chemie International Editionで発表した総説は、特に1950年代以降の主要な天然物全合成に焦点を絞り、それらにおいてキノン類によるディールス・アルダー反応が果たした役割を論じます。モルヒネ(Gates, 1952)、レセルピン(Woodward, 1956)、テトロドキシン(岸, 1972)、ジベレリン(Corey, 1978)といった全合成の歴史に残る古典的な成果から、近年に報告されたテトラサイクリン類・ナフトキノン類・ナフトキノン類の全合成までをカバーし、特に重要性の高い合成反応が例に挙げられています。読者がディールス・アルダー反応への理解を深め、今後の研究へのヒントを得るために有用な総説となるでしょう。
- 論文 ⇒ Nawrat, C. C. and Moody, C. J. (2014), Quinones as Dienophiles in the Diels–Alder Reaction: History and Applications in Total Synthesis. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201305908 (本文を読むにはアクセス権が必要です)