各ジャーナルの新年の初号では、編集長・エディターが巻頭言で投稿・出版論文数やインパクトファクターなどの出版データを発表することがよく見られます。有機合成・触媒化学の専門誌Advanced Synthesis & Catalysis誌(以下ASC誌)の2014年1月号では、同誌エディターのJoe P. Richmond氏が他誌以上に詳細なデータを公開していますので、その記事の中からポイントを2つご紹介します。
- この記事を読む ⇒ Richmond, J. P. (2014), Developments in Advanced Synthesis & Catalysis during 2013 and Plans for 2014. Adv. Synth. Catal., 356: 3–9. doi: 10.1002/adsc.201400012 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
1. 中国・インドの躍進
上の記事のTable 1は、過去5年間(2009~2013年)にASC誌に掲載された論文の国別内訳を示しています。それによると、中国(香港を含む)発の論文数は2009年の時点でも既に全体の首位に立っていましたが、2009年 96報 → 2013年 146報と4年間で約50%増、2013年の出版論文総数(426報)の34%を占めるに至りました。また絶対数では中国に及びませんが、インド発の論文も4年間で10 → 28報と伸長し、2013年は全体の4位にランクインしています。一方、日本は28 → 26報とほぼ横ばいで、2013年の順位は6位でした。
ドイツで編集されているASC誌は、歴史的に欧州およびアジアからの論文投稿が多い一方、北米からの投稿が少ない傾向がありますので、この結果が化学論文出版の全体的な状況に直結しているわけではありません。とは言え、化学誌としてインパクト上位にランクされるASC誌(2012年IF 5.535)での中国・インドの躍進は、科学研究の新興国と見られてきた両国の研究水準が、量的のみならず質的にも向上していることを示すひとつの証拠と見てよさそうです。
2. エディターリジェクト率は11%
エディターが掲載に値しないと判断した投稿論文を査読に回す前にリジェクトする、いわゆるエディターリジェクトは、以前から実施済みのジャーナルも少なくありませんが、ASC誌では2013年に初めて導入されました。初年の2013年にエディターリジェクトされた論文は133報で、全投稿論文中の11%に相当しました。査読の結果によるリジェクトを合わせた全体のリジェクト率は約65%でした。
エディターのRichmond氏は、エディターリジェクト導入の目的を、ASC誌に限らず多くの高インパクト誌で、不相応な質の低い論文の投稿が増える中で、査読者の負担を少しでも軽減するためと説明しています。高インパクト誌で低質な論文の投稿が増えている理由として、Richmond氏は、研究者の採用・昇進の判断にあたり高IFジャーナルでの出版実績が過度に重視されることと、ポスドク研究者に対する適切な指導が欠けていることを挙げています。