アフリカ・アジア・南米などで広く栽培されるキャッサバの芋(根茎)は、その澱粉がデザート・菓子の原料に使われるほか、多くの国・地域で重要な主食とされています。しかし、キャッサバ芋の外皮にはシアン化合物(青酸配糖体)が含まれるため、そのまま食べると中毒を起こす危険があります。そのため澱粉への加工や調理の前には必ず毒抜きの処理を行いますが、不十分な毒抜きによる中毒事故がしばしば起こり、アフリカではそれが原因といわれる足の麻痺「コンゾ」の患者が、これまでに10万人以上生まれているほどです。
こういった事情から、都市部から離れた地域でも手軽に検査を行えるよう、大掛かりな分析機器を使わずに短時間で結果が分かり、しかも高精度なシアン化合物の検査法の開発が求められていました。そうした中、インドの研究グループが合成したビスインドール骨格を持つ分子が、シアン化物を検出するためのすぐれた検査試薬となることが分かりました。この成果は、このほどChemistry – An Asian Journalで報告されました。
- 論文 ⇒ Kumari, N., Jha, S. and Bhattacharya, S. (2014), An Efficient Probe for Rapid Detection of Cyanide in Water at Parts per Billion Levels and Naked-Eye Detection of Endogenous Cyanide. Chem. Asian J.. doi: 10.1002/asia.201301390 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
この検査試薬は、シアン化物イオンの存在下では即時に赤から黄に変色し、シアン化物の有無を肉眼で確認することができます。実験の結果、この試薬の水中でのシアン化物イオンの検出限界は0.33 ppmでしたが、非イオン性界面活性剤を加えてミセルを形成することで、検出限界を8 ppbまで下げられることが分かりました。米国の安全基準では飲料水中のシアン化物イオンは0.2 ppmとされているのに対し、8 ppbというのはその1/25にあたる高精度です。
同グループは、生と毒抜き後のキャッサバ芋を使った実験も行い、抽出物やスライスに検査試薬を加えたときの変色の有無で、両者を正確に区別できることを確認しました。今後、中毒事故の防止につながることが期待されます。